2019年、クレジットカードの国際ブランドのひとつであるマスターカードが、信用度ではなく消費に伴うCO2排出量によって限度額超過を防止する史上初の「DO Black」カードを発行した。

同社はカード発行の意図として、「ユーザーが、購入した商品に関連するCO2排出量を追跡・測定するだけでなく、支出による気候変動への影響に制限をかけることができるようにするため」と述べている。

なお、同社がこのようなカードを発行することができるようになったのは、消費行動における温室効果ガスの発生量の測定およびその数値提供を行うスウェーデンのフィンテック系ベンチャー企業Doconomy社(2018年設立)との提携によるものである。そのため、「DO Black」カードはまずスウェーデンで使用可能になっている。

消費に伴うCO2排出量によって限度額超過を防止するカードとは、どのようなものなのか。たとえば、同じ値段であっても地元産のぶどうと遠方から輸入されたバナナでは、後者の方が輸送による温室効果ガスの量が多くなる可能性が高く、支払う金額とは不釣り合いなほど多くのCO2排出量が算定され、早々にカードの「CO2排出限度量」を超えてしまうということにもなるかもしれない。

このようなカードは地産地消を促すという点では良いのかもしれない。また、「DO Black」のようなカードは現時点ではごく少数派であり、利用者が海外産の商品を購入する際には別のカードで決済すれば良いだけなのかもしれない。

しかし、もしこのようなCO2排出量に制限を設けるカードがどんどん増えていってしまったらどうだろう。たとえば牛のゲップからのメタンガスは温室効果が強く、それをCO2に換算すると牛肉のCO2排出量は高くカウントされることから、牛肉はごく限られた回数しか食べられることができなくなるかもしれない。同様に、中南米やアフリカといった遠方からの輸入が多いコーヒーも入手困難な贅沢品となるのかもしれない。

金額としては支払うことができてもCO2排出量で制限が掛けられてしまうことで、手にすることが非常に難しくなる商品が増えるのではないか。牛肉やコーヒーなら飲み食いしなくても生きていくことはできるのかもしれないが、下手をすれば生活必需品にまで影響が出かねないのではないか。

マスターカード自身、このようなカードを発行することは「過激(radical)である」と認めている。しかし同時に、カード発行の中核的な目的として「消費者の行動変容を確実にし、地球を守るための新しい、過激で革新的なツールとして機能すること」と明記している。過激な取り組みであることを承知しながら、消費者の行動変容を目的とし、敢えて発行をしているのだ。

マスターカードを皮切りに、例えばビザカードに於いても「エコ・フレンドリー」と見做される行動にインセンティブ付けがなされるようなカードが複数発行されている。たとえば、公共交通機関への支払いや電気自転車へのチャージ、古着の購入などに高い還元率を付与するカードなども存在する。