理想と現実のギャップに揺れ動くEU

ただドイツもイタリアも、この法案について正面から「反対」しているのではなく、「修正が必要だ」といって待ったをかけていることはよく見ていく必要がある。

「必要な修正」とは、エンジン車の走行時に排出されるCO2排出に相当するCO2を、カーボンニュートラルな水素と反応させて作った合成燃料(e-Fuel)を使うのであれば、エンジン車であっても実質カーボンニュートラルで走行できるので、例外的に認めるべきだという主張である。

この主張なら少なくとも、環境イデオロギー的原理主義の立場からも正面切って糾弾されないだろうということなのだろう。しかしそうしたe-Fuelがどこまで大量生産、供給され、内燃機関自動車生産を延命できるかは現時点で全く見通せない。それでも「エンジン車販売禁止」となってしまえば、エンジン生産にかかわる工場は全面閉鎖せざるを得なくなるので、そうした事態を少しでも回避、延命して、世界の自動車産業の将来、さらには気候変動政策の動きを見極めていきたい、というのが本音なのだろう。

実際、今後発売するe-Fuel自動車について、e-Fuelだけで走る車ではなく、ガソリンやディーゼル燃料にe-Fuelを混ぜて走ることができるハイブリッドタイプにできれば、当分の間従来通り内燃機関自動車の生産を続けることが出来ることになるし、2035年時点で必要十分なe-Fuelの供給が実現できる見通しが立たなければ、EU域内でそのままガソリンやディーゼル車を販売し続けることが可能となる。

そうしたEU内部での混乱の中、3月25日には欧州委員会とドイツなど関係各国の間で、e-Fuelを使った内燃機関気動車については、例外として2035年以降も販売を認めるという妥協案が合意されたというニュースが流れた。この修正案が欧州議会、EU閣僚理事会で審議される中で、最終的にどのような形で法律化されるかについては、予断を許さない状況であり、今後もその動向を注視していく必要がある。

高い目標をかかげ、気候変動対策で世界をリードしてきたEUであるが、「言うは易く行うは難し」である。

今回のように、内燃機関自動車の禁止といった、実際の人々の生活や雇用に直結する具体的な対策に踏み込む段になると、掲げた「理想と現実のギャップ」に直面し、様々な政治的軋轢が噴出しはじめるという実態が顕在化し始めている。

他にもオランダで政府が進めようとしている農業分野の厳しい環境規制に反発した農民市民運動党が、3月15日に行われた地方選挙で第一党に躍進し、同国の上院第一党になることが決まっている。今後EUが急進的な気候変動政策を推し進めていこうとすると、各国でこうした市民や社会の反乱を招き、政治的な反発が強まることで大幅な方針転換を余儀なくされる事態が頻発するようになるのではないか?

日本もこれを他山の石として、EUの気候変動政策の実態や動向について慎重にフォローしていく必要があろう。