突然現れる「手」!! あれは影があり、物質である
――横澤さんに伺いたいです。90年にヨコザワ・プロダクションを設立。94年に例の降霊術が行われます。横澤さん自身はあの場所で何度も霊を見ているんですか? それはどんな頻度で起こりますか?
横澤:はい、何度も霊を見ていますし、劇団員に霊が取り憑いたりなどの事件もありました。頻度は、そのモードになれば毎日起こります。
ただ、稽古場には、本来は演劇の稽古に来ています。役者は役作りに集中し、私も演出家なので、霊のこともかまっていられなくなります。それでも霊に引っ張られたり、出ちゃったりするときもたまにあります。稽古中、私は気づくこともありますが、役者やスタッフを止めるわけにもいかないので、霊をスルーすることもあります。
――霊をスルーとは! でもあの場所にはそれだけ頻繁にポルターガイストが現れるわけですね。
横澤:10年以上在籍する劇団員はもう慣れちゃってますね。物がなくなっても、たぶんこっちに移動してますみたいな。それが如実に表れたのが、角さんもいらしたときのニコ生の生放送。ポルターガイスト現象により時計が飛びました。
角:そのとき、時計を覆っているカバーが取れちゃったんですが、消えたんです。時計と同じくらいの大きさのかなり大きいものですが、みんなで探してもないんです。
横澤:隙間に入ったとかではなく、フラットな床に落ちただけなのに、どこ行っちゃったんでしょう。僕が思うには「うらめしや〜」という四谷怪談のような幽霊ではなく、その空間や時空の歪みのような気がするんですね。

――それはあるかもしれませんね。映画のタイトルも、和風ではなくポルターガイストがぴったりです。
角:そのニコ生の放送中に現場では聞こえない幽霊の声を視聴者みんなが聞いてたんですよ。後から放送を見返すと、たしかに誰かが話していました。だから、今回のこの映画を観ている方々が勝手に何かを受信する可能性は高いと思います。それも、映画館によって違う声が聞こえるとかもあるんじゃないかな。
――たしかにありそうです。この映画では、時計が飛んだり、照明がチカチカしたり、手が出たりといろいろな現象が起こります。監督や案内役、現場の人として、これはどのようなものと思っていますか?
角:ひとつ言えるのは、あの「手」は物質であるということですね。
横澤:物質です。影があります。指紋はついてなかったですか?
後藤:指紋はなかったです。手術用のゴム手袋をしているかのような手なんです。でも、ゴム感はない。
角:私が3回目に見た「手」は人間の2倍ぐらいの大きさで、着ぐるみの大きい手袋みたいなものをしているように見えました。そして、人間より解像度が高いんじゃないかというほど、スゴくはっきりしていました。
横澤:たしかに野球のグラブぐらいですかね。厚みがあって、色はグレーっぽかったような。
角:天井ではなく、はっきり壁から手が出ました。
――こんなことが起こって、横澤さんは事務所の移転などを考えませんか?
横澤:まったくないです。私は子どものころから霊の存在を見てきて、誰も理解されなかったんです。何かが見えてしまい、話していたり、女のコの手をひいていたりしていて、小学校のときはいじめられてました。
それがこの空間であれば、いままで理解されなかった体験が、霊感のない人でも見られます。だから心地いいんです。もちろん、劇団員のなかでも見てしまったことで、やめてしまう方もいるんですけど、それでも僕はこの異質な空間を好んでいます。だから引っ越しは考えられないですね。
――本業の劇団自体に影響はないんですか?
横澤:25歳で始めたので初期は紆余曲折もありましたが、安定期に入ってからは、ずっと100人以上生徒がいるような状況です。
稽古場で聞いた声の通りに運営していると、スポンサーの方にお会いできることもありました。ポルターガイストが作る不思議な出会いですね。
――角さんと後藤さんは、初めてその場所に入ったときはどんな印象でしたか?
後藤:一番初めに入ったときは「こんなところでポルターガイストが撮れるのか」と思いました。今までの心霊スポットは廃墟などが多かったので肩透かしでした。演劇のレッスン用のだだっ広い会議室みたいな部屋で、心霊現象ってどうなんだろう? というのが第一印象です。全部で20坪ほどで、壁際には黒幕の中に小道具とかが入っています。真ん中にはなにもなく、天井には演劇用照明のバトンが吊り下げられています。

角:後藤監督はこの三茶の雑居ビルに思い当たりがあったみたいです。
後藤:もともとあのビルに幽霊が出るというウワサを聞いていました。しかも、ヨコザワ・プロダクションではなく、違うフロアなんです。「エレベーターにおばさんが出る」「霊のせいで水漏れがある」というウワサです。
――エレベーターにおばさん!? 実際にあのビルは飲食店などもあるんですか?
後藤:下にはスナックがあって、私は行ったことがあります。
横澤:その「エレベーターにおばさん」のウワサがビルの幽霊の原点だと思います。
角:私は2週間ほど前にそのスナックに行ったんですけど、女性1人の入店を断られてしまいました。ボーイさんに聞いたら「ここは昔から幽霊が出るとよく言われている。ちょっと敏感なお客さんだと『むちゃくちゃ幽霊がいる』と大騒ぎする」そうです。そのスナック以外のお店の前にもてんこ盛りにした盛り塩が置いてあるんですよ。
横澤:ほかのフロアも出ているのを知っている人はいると思いますが、あまり話題にはしないんですね。
――ほかのフロアはどうなっているのですか?
横澤:ほとんど水商売です。8階がカフェ。6階はマッサージです。
角:そのマッサージ店に行った人から心霊現象を聞いてます。マッサージを受けてるときにどう考えても腕が多いんですって。振り返ると、1人しかマッサージをしていないのに、「今、誰かいました?」と聞いても、ひとりしかいない。明らかに3本、4本の手でマッサージをされている感触を味わったそうです。