フランクルは強制収容所から解放された後、「全てのドイツ人が悪いのではない。実際、強制収容所でもいいドイツ兵士がいた」と語り、ホロコーストに対する「ドイツ人の集団的罪悪感」(collectiveguilt)を否定する発言をした。そして、ナチス・ドイツの戦争犯罪に関与した容疑を受けていたクルト・ワルトハイム大統領(1918~2007年、元国連事務総長)から1988年、ホロコーストの生存者としてオーストリア共和国への奉仕の星付き大銀メダルを授与されたことが報じられると、世界のユダヤ人からフランクル批判の声が飛び出した。
ヴィーゼンタールも世界のユダヤ人から批判を受けたことがあった。ワルトハイム大統領がナチス・ドイツの戦争犯罪に関与していたとして激しい批判の声が上がっていた時、ヴィーゼンタールは、「彼は自身の過去を偽って語ったが、ナチス・ドイツ軍の戦争犯罪に関わっていた事実はない」と述べたからだ。ユダヤ人で、ホロコーストを体験した著名な人物が、ワルトハイム氏は戦争犯罪に関与していないと発言することは当時、大変な勇気がいった。世界ユダヤ協会を筆頭に、世界の主要メディアはワルトハイム氏の戦争犯罪を激しく批判していた時だ。ワルトハイム氏は大統領再選を断念せざるを得なくなった(「ヴィーゼンタール氏の1周忌」2006年10月2日参考)。
フランクルが終戦後、ナチス・ドイツの戦争犯罪に関連した「ドイツ人の集団的罪悪感」を否定したことを改めて思い出す。戦後80年余りが経過したが、今なお世界的に反ユダヤ主義が席巻している。ユダヤ人であるという理由で、多くのユダヤ人が批判にさらされ、時には迫害されている。フランクルは「ドイツ人の集団的罪悪感」を否定することで、無意識に「ユダヤ民族の集団的罪悪感」を超克しようとしていたのかもしれない。
フランクルとヴィーゼンタールはほぼ同時代に生き、それぞれの分野で世界的な歩みをしてきたユダヤ人だ。同時に、ユダヤ社会から生前、批判の声を聞かざるを得なかった点で似ている。なお、3月26日はフランクルの118歳の誕生日だった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。