「ショートタイムワーク」のこれまで、これからは?

——ソフトバンクでは、なぜ「ショートタイムワーク」を始めたのでしょうか?横溝:弊社のCSR活動を推進していく中で、多様な人々が共に働ける環境が少ないのではという課題から生まれました。

弊社では2009年より、東京大学先端科学技術研究センターとともに障がいのある子どもたちの教育にICTを利用して学びのチャンスを拡げていく「魔法のプロジェクト」に取り組んでいます。
「魔法のプロジェクト」によって学ぶことができた子どもたちの次のハードルは、就労の機会が限られてしまうことでした。その壁を壊していくためのプロジェクトが「ショートタイムワーク」です。
ショートタイムワークは、東京大学先端科学技術研究センターの近藤教授の超短時間雇用モデルをもとに仕組化しています。

障がいのある方の中には、長時間働くことが難しいために就労機会を得づらい実態がある一方で、企業には障がい者雇用率制度の義務が設けられています。2023年3月現在、法律で定められている雇用率は2.3%ですが、実はここには、週20時間以上働けない方の雇用は含められません。
しかし2024年から、「週10時間以上20時間未満」に緩和される法律改正が行われます。これまで近藤先生とともに、障がいのある方の中には、週20時間働くことが難しい方も多くおり、一方で週20時間未満から働ける機会があれば活躍できるという事例などを含め、厚生労働省に訴えてきましたので、この改正はとてもうれしく感じています。

——「ショートタイムワーク」の今後について教えてください
横溝:もともとは障がいのある方のみを対象としたところから、さまざまな理由で長時間労働が難しい方々にまで対象を拡げてまいりました。最近は子育てや介護などの理由で離職していた女性に活躍いただく事例が少しずつ増えてきています。
他にも、闘病中でこのような働き方を求めている方の事例なども出てきており、さまざまな形でのショートタイムワークの事例を創出し、発信していきたいです。

今後は、自社の雇用だけでなく、さまざまな企業がショートタイムワークを導入することで社会全体として働く選択肢を増やしていきたいと考えています。

現在は、導入や実現には至らないまでも、興味を示していただいて、情報交換を続けている自治体や企業が増えてきています。これからも、ノウハウや取り組みをまとめ、事例の紹介などを続けていき、さらにご賛同者を増やしていきます。
特に中小企業での人材不足解消をショートタイムワークの導入で解決できないかと考えています。

——中小企業ができる工夫はありますか?
横溝:中小企業は経済的理由やシステム管理者が足りないなどの理由から、ICT化が進まないと言われています。でも、大きなシステム改修などを行うこともなく、ほんの少しICTを活用してみたり、働き方に柔軟性を持たせることで、人材不足が解消できる可能性があります。
例えば、テレワークを実施することで、コミュニケーションのロスが生じることを不安視される場合には、WEBカメラの常時接続を導入することで、ワーカーさんとリモート勤務でもメンバーとして一緒に働いている感覚が共有できたりもします。
Googleドキュメントで共同編集ができるといった、ちょっとしたICTのソリューション、小さな工夫のようなことをお伝えしていくことも大切です。

このような工夫を含めて私たちが発信して、企業にとっての人材不足解消や業務の効率化と社会課題の解決が両立できるものであるという理解が進むようにすることも、大事なミッションだと考えています。

——横溝さんはこのプロジェクトにどんな想いをお持ちですか?
横溝:このプロジェクトを通じて、働き方の選択肢が増えて、より多くの方が活躍できるような社会になればいいな、と思っています。

先天性の心臓疾患があり、私も障がい者のひとりです。現在はフルタイム勤務をしていますが、将来、今と同じように働けなくなることをどこかで心配しています。
在宅での勤務ができることで、通勤の負担が減ったと感じた一方で、コロナ禍では長期的な在宅勤務となり、孤独感を感じやすい環境にも気づきました。私は、WEBカメラで同僚とつながりながらテレワークができたことで、コロナ禍の勤務でも今の業務を継続しながら、孤独感を感じずに働き続けられたと感じています。
また、このような働き方を柔軟に受け入れてくれた会社や周りのメンバーにも感謝しています。

ショートタイムワークを通して、「働くことで自分に自信を持てるようになった」という声や「組織にとってなくてはならない存在になっています」といった声をいただいています。
企業が柔軟な働き方の選択肢を持つことで、”働く”を選択できる人が増え、企業の活力につながる事例をもっと増やしていきたいです。
これからも、ショートタイムワークが、働く選択肢のひとつとして社会の当たり前になることを目指し、取り組みを続けていきます。

<インタビュイープロフィール>
横溝 知美(よこみぞ・ともみ)

2016年 ソフトバンク株式会社入社。
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 CSR本部 CSR企画統括部 CSR企画部 多様性推進課

先天性の心臓障がいがあり、医療機関で治療を続ける中、自らも医療の現場で働き、社会に貢献したいと思い、工学部の医用生体工学科の大学に進学。
在学中に体力の低下を感じ、医療の現場で働き続ける形ではなく、他の形で社会に貢献したいと考え、進路を変更。ITの活用により通院や手術などで通学が難しい時期も、友人や家族とつながり続けることができた経験から、ITのもたらす可能性を広げたいと考え、IT業界へと進路を変更してソフトバンクに入社。

入社後は一貫してCSR業務に携わっている。