【パウエルFRB議長の記者会見、質疑応答のポイント】

〇冒頭の原稿

―米銀破綻問題 「過去2週間において、少数の銀行で深刻な問題が発生した。歴史が示すように、対応しなければ健全な銀行の信頼が損なわれ、銀行システムが担う家計や企業の貯蓄や信用へのニーズを支える重要な役割が脅かされうる。だからこそ、Fedは米財務省や米連邦預金保険公社(FDIC)と協力し対応し、米経済を守るべく断固とした行動を取り、銀行システムに対する公共の信頼強化に努めた」 「銀行システムは健全で強靭であり、力強い資本と流動性を有する」 「我々は、銀行システムの動向を注意深く監視し続け、安全かつ健全とすべく必要ならばあらゆる手段を講じる」

―総括 「インフレは引き続き高過ぎる水準にあり、労働市場はひっ迫し続けている」 「我々はインフレを目標値の2%に回帰すべく、強くコミットし続ける」 「物価の安定は、Fedの責任であり、経済の基盤として機能している。物価安定なくして、経済は誰のためにも機能しない。特に、物価の安定なくして、全ての人々に恩恵をもたらす強い労働市場の状態を持続的に実現することはできない」 ※「継続的な利上げ」の文言削除に合わせ、「FOMCは政策金利を0.25%ポイント引き上げた。物価を2%に戻すべく、十分に引き締め寄り(sufficiently restrictive)な金融政策姿勢を実現する上で、継続的な引き上げが適切と考える」との表現を使用せず。

―米経済 「米経済は昨年の急速な拡大ペースから大幅に鈍化し、実質GDP成長率は潜在成長率を下回る0.9%だった」 「経済金利見通しが示すように、実質GDP成長率予想は2023年が0.4%増、2024年が1.2%増と、長期見通しを下回る」 「ほぼ全員の参加者は、成長率の下方リスクを見込む」 「

―個人消費 「個人消費の伸びは今期回復したようにみえるが、天候要因が影響した可能性がある」

―住宅市場 「住宅市場は住宅ローン金利を反映し、対照的に引き続き弱い」

―企業活動、輸出 「金利上昇と生産の伸び鈍化は、企業の固定資産投資の重石となっているようだ」

―労働市場 「成長鈍化にも関わらず、労働市場は極めてひっ迫し続け、失業率は50年ぶり低水準で、求人数は依然として非常に高い水準にあり、賃金は高止まりしている」 「雇用増加のペースは昨年に鈍化し名目賃金の上昇ペースも鈍化の兆しがいく分みられるが、労働市場は均衡を欠いている。需要は供給される労働力を上回っており、労働参加率は1年前からほぼ変化していない」 ※米12月雇用統計が堅調な結果だったため、前回からと変わらず。

―物価 「物価は目標値の2%を依然として大きく上回っている」 「インフレは2022年半ばから、いく分鈍化したが、力強い数字を踏まえるとインフレ圧力は依然として高い」 「インフレ率を目標値の2%に回復させるには長い道のりが待ち構え、浮き沈みが激しくなりそうだ」 ※インフレ抑制に時間を要すると発言し、インフレ抑制への姿勢を強調。

―金融政策 「Fedの金融政策に関わる行動は、米国人のため雇用の最大化と物価安定を促進するという統治目標に基づく。我々は高インフレが購買力を低下させ、特に食料、住宅、交通などの必需品のコスト上昇に対応できない人々にとって大きな苦難をもたらすことを痛感していいる」 「インフレが2つの統治目標にもたらすリスクに強く注意を払い、2%に戻すことに強くコミットする」 「金融環境は政策対応を受けて大幅に引き締まり、住宅など最も金利の影響を受けやすい経済セクターの需要に効果が現れている。しかし、金融引き締めの効果が完全に現れるには、特にインフレ動向においては時間がかかるだろう」 「本日、25bpの利上げを決定し、保有証券の大幅な縮小の過程を続けている」 「前回のFOMC以降、入手した経済指標は全体的に市場予想より強く、経済活動とインフレに強いモメンタムがあることを示す」 「ただし、過去2週間の銀行システムにおける出来事により、家計や企業の信用動向がひっ迫し、それが経済効果に影響を与えると信じている。こうした影響がどの程度か、また金融政策でどのように対応するかを決定するには時期尚早だ」 「だからこそ、我々はもはやインフレを抑制すべきく”継続的な利上げが適切”とは言及せず、その代わり、いく分の追加的利上げが適切な可能性があると明記した」 「我々は今後入ってくるデータを注意深く監視し、経済活動、労働市場、インフレに与える実際且つ予想される影響を評価し、金融政策の決定にこれららの評価を反映させる」 「FF金利見通しは前回と概ね変わらないが・・仮に経済が予想通りに進展しなければ、政策の道筋は雇用の最大化と物価安定を支援すべく適切に調整する」 「我々は入手するデータ、並びに経済活動とインフレの見通しが与える意味など全体に基づき、会合毎に政策を決定する」 ※前回使用した「金融政策の累積的な引き締め効果と金融政策が経済活動やインフレに影響を与えるラグに鑑み」との文言を削除。「いく分の追加的利上げの可能性がある」との表現に合わせ、政策の自由度を確保した。

〇質疑応答

―今回据え置き可能性があったかについて 「会合の間に、据え置きを検討した」 「我々は物価の安定を回復することにコミットしており、あらゆる証左が、我々が長期的にインフレ率を2%に低下させることを実現すると国民が確信していることを物語っている。私たちは、言葉だけでなく、行動によってその信頼を維持することが重要だ」

―年内の利下げの可能性について 「最もありうるシナリオとして・・・FOMC参加者は年内の利下げを見込んでいない。もちろん、経済は不確実性が存在するが、利下げは、メインの見通しではない」 「(金融環境が引き締まりをみせているため、利下げが必要ではとの質問に対し)伝統的な指標は金利や株式に集中しており、貸出や状況を必ずしも捉えていない」 「問題は、(金融環境の引き締まり)どの程度の規模になるのか、そしてその期間はどの程度になるのかということだ」 「利下げは、メインシナリオではない」 ※市場の利下げ期待をけん制。

―利上げの可能性について 「必要ならば、金利を引き上げる・・・しかし、現時点では信用収縮の可能性をみており、マクロ経済に影響を与えると理解している」 「さらなる利上げを考える際には、警戒が必要であることを意味する」

―SVB破綻、金融不安について 「FRBの銀行監督担当者は、リスクを察知して介入した」 「監督並びに規制を強化する必要があり・・・銀行システムに広範な脆弱性はない」 「銀行システムにおける預金の流れは先週の間に落ち着いた」 「SVBの破綻はひどいもので、顧客を流動性リスクと金利リスクにさらした」 「(SVB破綻について)私の唯一の関心は、何が問題だったかを特定することだ」 「SVBのケースは例外的」 「我々は預金を保護する手段を有しており、経済や金融システムに深刻な害を及ぼす脅威が発現した時には、それらを駆使する用意がある。預金者は預金が当然安全だとみなすべきだ」 「クレディ・スイスの買収は奏功したようで、現時点で落ち着いた動向に」

―保有資産について 「新たな流動性供給措置により保有資産の規模が拡大しても、金融政策の姿勢変更の意図はない」 「保有資産をめぐる変更は協議しなかった」 「準備金が変動した場合に常に対応すべく備えているが、これまでのところその証左は見当たらない」

チャート:連銀の窓口貸出、3月15日時点で1,528億ドル増加、リーマン・ショック時で最高の1,107億ドルを超え過去最大

fomc23mardw (出所:My Big Apple NY)

チャート:Fedの保有資産、3月15日に約2,970億ドル増加

fomc23marbs (作成:My Big Apple NY)

―米経済について 「(米銀破綻などの)事象がどのような影響をもたらすのか、言及するのは時期尚早だ」 「とはいえ、(ソフトランディングが可能かとの質問に)道筋はまだ存在し、我々は当然それを探っている」 ※金融不安が渦巻くなか、2023~24年の成長見通しを下方修正した程度で景気後退を予想しないように、ソフトランディングへの可能性を見込む。

―インフレについて 「ディスインフレは確実に起こっている」 「モノのインフレは、我々の予想を下回るペースだが鈍化している」 「住宅を除くコアサービスのインフレに緩和の兆しは依然としてみられない」

――今回のFOMCで重要なポイントは、以下の通り。

・「継続的な利上げ」を削除し「いく分の追加的な利上げ」へ修正したように年内あと1回の0.25%利上げを予想 ・ただし「いく分の追加的な利上げの可能性(may)」とし、「継続的な利上げ」に掛かった「will」からトーンダウン、5月2~3日開催のFOMCで据え置きの余地を残す ・年内の利下げは、想定せず ・保有資産の縮小を継続へ、今回の利上げと合わせインフレ抑制への姿勢を打ち出した格好 ・一方で、米銀破綻を受け信用収縮を予想し、経済や労働市場、インフレを圧迫しうると見込む

一連の結果並びにパウエル氏の発言に反し、3月22日時点で3月で利上げ打ち止め、7月の利下げ転換、9月と12月の追加利下げと合わせ年内は3回の利下げが織り込まれています。

チャート:5月FOMCでは、据え置きの見方が50.4%とわずかに優勢

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チャート:年内は3回の利下げを予想

ff23mar22 (作成:My Big Apple NY)

金融市場は、銀行問題をめぐり事態の収束を見込んでいない様子が伺えます。筆者も、こちらで指摘したように融資基準の厳格化→ベンチャーやスタートアップを中心とした企業の資金繰り悪化→景気減速の打撃と業績不振→採用凍結 or 解雇→景気悪化――といった負の連鎖に陥るリスクが残るだけに、楽観するのは時期尚早と見込みます。

また、銀行破綻をめぐりバイデン政権率いる民主党と共和党が真っ向から対立している点も、気掛かりです。米債務上限引き上げ交渉が難航し、7月頃に金融市場を直撃する恐れがあります。ウォール街が7月以降に利下げを織り込むのは、そうした事情も意識されているのではないでしょうか。

編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年3月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。