コロナワクチンの遺伝情報がヒト遺伝子に組み込まれるか? この問いに解答を与えるにあたって、新たに重要な情報が発表された。mRNAワクチンの製造工程ではプラズミドが原料となるが、最終工程でプラズミドを除去することが必要で、その混入は基準値以下でなくてはならない。プラズミドは、染色体とは独立した環状2本鎖DNAで、自己複製が可能である。
ファイザー社およびモデルナ社のワクチンサンプルを次世代シークエンサーでRNAシークエンスを行ったところ、欧州医薬品庁(EMA)の基準値を数桁上回るプラズミドの混入が見られたことが報告された。この混入プラズミドは大腸菌を形質転換することも判明している。ことの重要性から、この発表の真偽を至急検討することが必要である。
ワクチンに含まれるmRNAは、哺乳類の細胞でのみ翻訳できるように設計されているので、プラズミドに由来するスパイクタンパクが発現するには、プラズミドがヒトゲノムに組み込まれることを必要とする。ワクチンに混入したプラズミドは、先に説明したLINE-1のような逆転写酵素の働きを必要とせずにヒトゲノムに組み込まれる可能性がある。
このプラズミドがヒトゲノム上のがん遺伝子の近傍に組み込まれると発がんのリスクがあるが、それ以上に問題なのは、持続的にスパイクタンパクが体内で作られる可能性があることである。スパイクタンパクは血管内皮細胞を傷害するなど、ワクチンに見られる種々の副作用の原因であることを考慮すると、上記の報告が事実であるとすれば、その影響ははかり知れない。
遺伝子治療はもともと稀少な遺伝性疾患を対象としており、臨床研究に参加する患者数も数十人程度である。このレベルなら、先天性免疫不全症やX連鎖副腎白質ジストロフィーの例でわかるように、発がんのリスクについてもすぐ気づかれる。
ところが、コロナワクチンについては、すでに億単位のレベルで接種されているので、がん化のリスクを捉えることは容易ではない。ワクチン接種が引き金となって発症したがんと従来のがんとに臨床的な違いがあるわけでもないので、発がんとワクチン接種との因果関係を証明することは困難である。またワクチン接種ががん化を促進する要因としては、ヒトゲノムへの遺伝子の組み込みばかりでなく、免疫監視機構の低下やEBウイルスなどの発がんウイルスの再活性化の可能性も考えられる。
次世代シークエンサーで、がん組織の遺伝子を網羅的に検索し、ワクチン由来の遺伝子配列を検出すれば、ワクチン由来の遺伝子が組み込まれたことによるがん化であることを直接的に証明することができる。
次世代シークエンサーによる遺伝子検査は、研究室レベルではよく用いられる手法であるが、検査費用も高額で保険適用もないことから、臨床現場で実施するのは容易ではない。しかし、この問いに答えを出すには、全国がん登録を詳細に検討して、異常な増加を示すがん種があった場合に、そのがん種を対象に網羅的遺伝子検査を行うこと以外に方法は思いつかない。