X連鎖性副腎白質ジストロフィーは、中枢神経系に脱髄が生じる予後不良な疾患であるが、海外ではレンチウイルスベクターによる遺伝子治療の臨床研究が行われている。安全とされているレンチウイルスベクターを用いているが、昨年の発表では、遺伝子治療を受けた67例中3例に骨髄異形成症候群が発症している。以上のように、遺伝子治療では、がん遺伝子の近傍への遺伝子挿入を避けて、がん化のリスクを減らすことが最大の課題である。

遺伝情報は、DNA →(転写)→ mRNA →(翻訳)→ タンパク質の順に伝達されており、この基本原則は、セントラルドグマと名付けられている。厚労省のホームページには、コロナワクチンとしてヒトに投与されるmRNAは、数分から数日で分解され、mRNAからDNAはつくられないので、その情報が長期に残ることや、精子や卵子のDNAに取り込まれることはないと記載されている。

図2 コロナワクチンが安全な理由厚労省のホームページから

ところが、2022年に、スウエーデンからコロナワクチン由来のmRNA遺伝情報がDNAに逆転写する可能性が報告された。ファイザーmRNAワクチンを添加した培養液中で、ヒトの肝がん由来の細胞株を培養したところ、培養開始から6時間で細胞内においてm RNAがDNAに逆転写することが示されたのだ。なお、この逆転写はヒト内因性逆転写酵素であるLINE-1の働きによることも示された。しかし、この研究では、逆転写されたDNAが核内に侵入して宿主のDNAに組み込まれているかは明らかでない。

本研究結果に対しては、1)逆転写されたDNAが核内に存在することが示されていない、2)もともとLINE-1が過剰発現しているがん細胞株を用いて行われた実験結果であり、正常細胞で同じ結果が得られるのかは明らかではないことを理由に、ワクチン由来の遺伝情報がヒトのDNAに組み込まれる可能性を否定する意見も見られる。