イラク戦争勃発から20年

今年開戦から20周年を迎えるイラク戦争は、二つの誤った前提に基づいてアメリカがイラクを侵攻した戦争だった。

ひとつはイラクのサダム・フセイン政権が大量破壊兵器を保持しており、アメリカにとってはすぐにでも除去しなければ喫緊の脅威だったという前提。もう一つは、イラク市民がフセインから解放されたいと願っているはずだという純粋な期待だった。

しかし、周知のように二つの前提は侵攻後、虚偽であることが判明した。実際のところイラクは大量破壊兵器を保有していなかった。また、米兵の捕虜虐待などの事件も禍して、アメリカはイラク人に歓迎されるどころか、反米運動に直面した。

フセイン政権が倒されたことで、イラクのみならず、中東全域の治安が急激に悪化し、イスラム国などに代表される過激派組織の台頭を許した。

当時ジョージ・W・ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と名指したイランは今ではイラク内で影響力を拡大させており、イラク侵攻はアメリカの脅威であったイランの中東における影響力を逆に強める結果を生んだ。戦争によって約4000名の米兵、30万人近いのイラク民間人が犠牲となった。

米国がイラクに侵攻してからの20年間、イランはイラク国内に忠実な民兵を作り、同国内で深い政治的影響力を持ち、経済的利益を享受してきた。ワシントンにとって、これらは意図しない結果であった。

イラク戦争は二人のアメリカ大統領を誕生させている。バラク・オバマとドナルド・トランプだ。オバマはイラク戦争反対の急先鋒であり、2008年に民主党大統領候補の大本命でイラク侵攻を支持していたヒラリー・クリントンを退け、そのまま大統領に当選した。

トランプもイラク戦争の失敗によって党内主流派が信用を失って出来た力の空白に入り込み、番狂わせを起こした。2016年の討論会で候補者トランプがブッシュ大統領の弟であるジェブ・ブッシュに対してイラク戦争が「大きな間違い」だったと批判した時は大きな衝撃をもって受け止められた。