自治体が一丸となってeスポーツを推進

もう1つの理由は、美里町の福祉課との協力体制です。

「eスポーツでいい里づくり事業」は、企画情報課が主導して進められました。

高齢者の認知機能を改善するためには、福祉課との協力が不可欠です。しかし、業務範囲外であるeスポーツ事業に、福祉課の職員は当初は難色を示したそうですが、粘り強く説得して協力を得たとのこと。

仕組みを整える必要性を感じたため、来年度には、福祉計画の中にeスポーツの取り組みを書き込む予定だと伺っています。

最初に述べたように、全国各地で高齢者のeスポーツ事業が展開されていますが、単に形だけ整えたとしてもうまくいかない場合があります。まずは高齢者が興味を持ち、楽しんで参加してもらうことが大切です。

美里町は、子どもから高齢者まで様々な世代の交流を促す取り組みの中で、高齢者が楽しくeスポーツを行うことができる環境を整えました。その上で福祉課と協力して、健康増進や介護予防、デジタルデバイド対策などを行っています。

その結果、美里町ではこの事業をきっかけにデジタルデバイスに興味を持ち、タブレットを購入した高齢者も出てきています。

美里町の取り組みは、住民本位であり、高齢者の気持ちに訴えかける取り組みとして、自治体DXの本質である「誰1人取り残さない」という理念を実践していると言えます。

自治体で新しい取り組みに挑戦する場合、担当課ではなく総合政策課やDX推進課などの企画調整組織が推進するのが定石です。しかし実装・運用段階になってから現場組織を巻き込もうとしても上手くいかないケースがよくあります。

<著者プロフィール>

小田理恵子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム
代表理事

大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。電力会社、総合商社、ハウスメーカーなど幅広い業界を支援。

自治体の行政改革プロジェクトを契機に、地方自治体の抱える根深い課題を知ったことをきっかけに地方議員となることを決意し、2011年より川崎市議会議員を2期8年務める。民間時代の経験を活かし、行財政制度改革分野での改革に注力。

地域のコミュニティと協働しての新制度実現や、他都市の地方議員と連携した自治体を超えた行政のオープンデータ化、オープンイノベーションを推進し国への政策提言、制度改正へ繋げるなど、共創による社会課題解決を得意とする。

現在は官と民両方の人材育成や事業開発(政策実現)の伴走支援・アドバイザーとして活躍。