生き生きとeスポーツに参加する高齢者
こうして始まった高齢者のeスポーツ、最初は抵抗感を覚える高齢者もいました。しかし、実際に参加すると楽しいという声が多く、生き生きとした様子でゲームに向かっています。
美里町では今でも全国から事業への視察が殺到していますが、視察に来た人たちも、この高齢者の様子には驚くそう。
また、デジタルツールを使うことが苦手な高齢者にとって、eスポーツは脳を刺激する効果があり、自宅に閉じこもりがちな方には交流の場を提供し、介護や認知症の予防につなげる可能性があるとのこと。
以前筆者が上田町長にインタビューした際、町長からはこんなコメントをいただいています。
「美里町は中山間地域を抱え、高齢化も進む自治体ですが、DXに真剣に取り組まなければ行政サービスの質が低下する可能性があると考えています。
現在と同程度の行政サービスを維持するためには、いずれは何らかの形で高齢者にもデジタルに触れてもらうことが必要な時代が来るはずです。
このような状況を見据えると、eスポーツはデジタルに対する抵抗感を軽減させる良いきっかけになります。全国の自治体がデジタルデバイドの課題に向き合う中、美里町は先駆けて1つの解を示したことになります。
1日の大半を自宅で過ごす高齢者は、テレビのリモコン以外の電子機器にはほとんど触れないのではないかと思います。
そんな人たちが外に出て集まり、皆でワイワイとゲームを楽しめば、おのずとデジタルデバイスに興味を持つのではないでしょうか。
実際にタブレット端末を自分で購入した方もいらっしゃいます。eスポーツは、来るべきデジタル社会に自然に対応できるようになるための1つの手段になっていると考えています。」
年齢を超えたつながりができたことが成功のカギ
町長はじめ、職員や関係者の協力によって始まった高齢者のeスポーツ事業ですが、今では町に定着しつつあります。このように美里町で事業が成功している理由は2点あります。
1つ目は、「eスポーツでいい里づくり事業」が子どもや高齢者など、世代間を超えて結びつける取り組みの一環であったことです。
この「eスポーツでいい里づくり事業」は、3つの柱で構成されています。
1つ目は介護や認知症予防の取り組み、2つ目は子どもたちへのプログラミング教育、そして3つ目は世代間(他地域間)交流による地域活性化です。具体的には、eスポーツを活用したプログラミングの授業や、高齢者と子どもたちがゲームで交流する場を提供するものです。
高齢者はゲームを練習して対決に臨み、小学生はプログラミング教育を受けた上で参加します。この取り組みにより、「孫と会話するときの話題が増えた」「孫と共通の話題で盛り上がれるようになった」といった声が寄せられています。
事業を始めた当初は介護・認知症予防の意義が強かったのですが、最近は世代間交流において大きな成果が上がっているとのことです。この3つの柱が相互作用を生み出していることがポイントです。