デフレの克服には「良い物価上昇」が必要

そもそも、我が国において食料やエネルギーの価格が大きく変動しているのに対し、それ以外の物価は落ち着いてきたことの一因に賃金の低迷がある。ロシアのウクライナ侵攻に伴う石油や農産物等の資源高が食料品やエネルギーの価格を押し上げる一方で、企業収益の圧迫を通じて賃金を押し下げてきたためである。特にサービス価格の低迷は、国内の賃金伸び悩みが影響している。そして、こうした原油や穀物といった国内で十分供給できない輸入品の価格上昇で説明できる物価上昇は「悪い物価上昇」といえる。

物価上昇には「良い物価上昇」と「悪い物価上昇」がある。「良い物価上昇」とは、国内需要の拡大によって物価が上昇し、これが企業収益の増加を通じて賃金の上昇をもたらし、さらに国内需要が拡大するという好循環を生み出す。しかし、特にロシアのウクライナ侵攻以降の物価上昇は輸出入物価の高騰を原因とした値上げによりもたらされている。そして、国内需要の拡大を伴わない物価上昇により、家計は節約を通じて国内需要を一段と委縮させている。その結果、企業の売り上げが減少して景気を悪化させていることからすれば、「悪い物価上昇」以外の何物でもない。

特に、ロシアのウクライナ侵攻継続により世界経済の低迷が危惧される状況下、今後とも食料エネルギーに関しては需要が供給を上回る状態が継続する可能性が高い。これに対し、日銀は中長期的な物価安定について「消費者物価が安定して前年より+2%程度プラスになる」と定義している。しかし、資源価格の上昇により消費者物価の前年比が一時的に+2%を大きく上回ったとしても、それは安定した上昇とはいえず、「良い物価上昇」の好循環は描けない。

従って、本当の意味でのデフレ脱却には、消費者物価の上昇だけでなく、国内需要不足の解消が必要となる。そしてそうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる「良い物価上昇」がもたらされることが不可欠といえよう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

低所得者層と富裕層の実質所得格差、一段と拡大…低所得者層の実質購買力がより低下
(画像=『Business Journal』より引用)

提供元・Business Journal

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