より実感に近いのは年収階層別の消費者物価

以上より、消費者物価の実感は、消費全体で測る場合と、所得階層別の消費行動で分けて測る場合で結果も変わってくる可能性が高い。総務省で作成している消費者物価指数は、消費者全体の消費構造に着目し、品目毎の価格動向を統合することによって計測される。つまり、家計調査によって得られた基準年における月平均の世帯当たり品目別消費支出金額のウェイトを用いて作成することによって、一国全体の物価動向を判断している。

しかし、実際に消費者が実感する物価は、消費者それぞれが購入する財やサービスの構成比によって異なる。従って、少なくとも所得階層別における消費の構成比の違いに着目し、それぞれの消費者物価を見れば、より人々の実感に近い消費者物価指数になる。特に、同じ所得階層の中での消費構造に大差がないと仮定すれば、所得階層別の消費者物価は、所得階層別の消費構造から計測されるウェイトに依存する。つまり、価格が上昇している財やサービスを多く購入している階層の消費者であれば、その人にとっての消費者物価はより上昇しているかもしれない。

このように、消費構造の違いをもとに所得階層別の消費者物価を見ることは意味があるといえる。そこで、実際に所得階層別の消費構造に着目したCPIを確認してみた。下のグラフは、高所得者層の消費者物価として年収階層上位 20%世帯のCPIと、低所得者層の消費者物価として年収階層下位 20%世帯のCPIを時系列で比較したものである。現局面のCPIを両極端な2つの階層で比較すると、低所得者層のCPIは2022年に高所得者CPIより急激に上昇していることが分かる。

低所得者層と富裕層の実質所得格差、一段と拡大…低所得者層の実質購買力がより低下
(画像=『Business Journal』より引用)

以上より、生活必需品の価格が相対的に上昇局面にある場合は、消費者全体のCPIの動きのみで物価を判断すると、低所得者層の消費者が感じるインフレ率を過小評価してしまうことになるといえよう。この結果は、特にロシアのウクライナ侵攻以降の我が国でスクリューフレーションがより深刻化していることを示している。

地域格差ももたらす物価の二極化

実質的な所得格差には、名目所得の格差に加えて物価変動による影響の格差も反映されるため、こうした物価変動も家計の実質期待所得の増減を通じて個人消費にも影響を及ぼす。このため、所得階層間による物価変動の格差は先行きの所得格差を見通す上でも非常に重要になってこよう。そして、高所得者層と低所得者層の生活格差が拡大する我が国のスクリューフレーションの背景には、所得階層の違いによって購入価格の変化が異なることも影響しているといえる。特に、所得の伸びが低い低所得者層では、一方で購入する生活必需品の価格が上がりやすいことに伴い購買力が損なわれている。

また、物価の二極化は、地域格差も広げる可能性がある。公共交通網の目が粗い地方では自動車で移動することが多く、家計に占めるガソリン代の比率も都市部に比べて高い。また、冬場の気温が低い地域では、暖房のために多くの燃料を使う必要があり、こうした地域にとって灯油代の高騰は大打撃だ。電力料金やガス料金も燃料市況に連動するため、原油やガスが上がれば光熱費も増える。特に、電気は生活必需品である一方で、一般的に低所得者層のほうが高所得者層に比べて消費性向(所得に占める支出の割合)が高い。このため、相対的に低所得者層に対する負担が高まるという問題がある。

従って、ロシアのウクライナ侵攻以降に深刻化した我が国のスクリューフレーションは実質所得の格差をさらに拡大させる可能性を示唆しており、今後も生活必需品価格の上昇や電気料金値上げを通して格差拡大が生じる危険性も考えられよう。

低所得者層と富裕層の実質所得格差、一段と拡大…低所得者層の実質購買力がより低下
(画像=『Business Journal』より引用)