「韓国正常化の兆し」を受け取り拒否する人
「対韓強硬派」の人たちは、「嫌韓」姿勢を心地よく感じ、「非韓三原則」等と表現して「国交断絶せよ」とまで主張することもある。そのような心理を維持する人々にとって、次の事実とそれが示すトレンド転換は受け入れられない。
① 2022年9月7日、「6年ぶりにレーダー照射問題などで日韓防衛次官級協議開催」 ⇒「実務責任者間では二国間関係の正常化に向けた努力が始まっている」
② 2023年2月1日、「観世音菩薩坐像の所有権は日本にある」という(韓国)高裁判断 ⇒「法的に妥当な判断を下せる世論環境など、司法界も正常化に向かい始めた」
③ 2023年2月16日「韓国国防省が2022年版の国防白書で、前回20年版で「隣国」との表現にとどめていた日本を、「価値を共有し、未来協力関係を構築していくべき近い隣国だ」と規定。一方で「北朝鮮の政権と軍はわれわれの敵」との記述を復活。 ⇒「安全保障上の日韓関係正常化努力を韓国側も始めている」
一方、「対馬の仏像」高裁判決に対し、松川議員がSNS上に次のような認識を示していた。
まっとうな政権になるとこうも変わるのかと改めて思います。ユン政権において日韓関係の正常化が実現するよう願います。次元を画する安全保障環境の中、日韓とも過去に拘泥している余裕はないですから。:対馬の仏像、日本側に所有権 返還は韓国政府が要検討と高裁 LzIgeLIVa4
— 松川るい =自民党= (@Matsukawa_Rui) February 1, 2023
「ネット右翼」層にとって韓国側が反日から親日(用日)に変化した事実は、既に強固に形成された心の中の風景「メンタルモデル」に著しく反する情報であり受け入れがたい。
なぜならば、「非韓三原則」のように排外主義的な自分たちの「嫌韓」姿勢に、日本政府や自民党議員のベクトル(方向と量)があっていたのに、相手(韓国)が変わった結果、自分たちのもとから日本政府が去って行く「悲しい事態」を招いているからある。
それにしてもなぜ、このような視点の違いが生まれるのだろうか。
視野の違いが生む「国益」認識の差異その原因の一つは、認識している「国益」の違いだと筆者は考える。
図4に示す通り、大目的としての「国益」とそれを実現する手段としての「外交」は、立体的で一体不可分な(上下の)構造を形成しているが一般国民にその構造はよく理解できないだろう。まともな説明がされていないからである。
そのため「排外主義」という視野狭窄に陥った層は、自分の関心に従い、対韓国という(限定的な)領域で「国益」(たとえば「竹島返還」)を認識する。
しかし、日本政府や松川議員の視野にあるのはもっと広くて深い国際社会の中で「国益」であり、現実的な対応を模索する。言い換えると、排外主義的な「ネット右翼」が最優先に考えるのは「部分最適」に過ぎず、責任を持った政治家たちが優先するのは最上位にある「全体最適」としての「国益」である。
「たとえ個別の二国間問題の解決にマイナスをもたらすことになろうとも、国家存亡の危機を回避する上ではやむを得ない」といった判断は政治家にしかできないだろう。

図4日本の安全保障戦略の複層構造と韓国の存在意義※「安全保障戦略(2022年12月閣議決定)」を元に筆者作成
今回、松川るい議員に「失望」を表明したのは、個人的アイデンティティを社会的アイデンティティに強く重ねた排外主義的な傾向のある「ネット右翼」層であった可能性が高いと考える。
また、冒頭に参照した調査によれば、「ネット右翼」に分類される層の規模は、ネット利用者全体の1%程度と推定されるそうである。
しかし、日本は一党独裁や全体主義の国ではないので、政治的立ち位置の多様性は歓迎すべき性質である。課題は、これらの人々の主張や悲しみの表現をどう掬い上げて政治に反映させて行くかであろう。
そして国連安保理の“機能不全”などが顕在化し、国際環境が苛烈になっている現在、日本としてはどう対処すべきなのだろうか。
(次回につづく)