松川るい議員の『日曜報道THE PRIME(2月5日放送)』における対韓外交論に対し、ツイッター上で相当多数の反応がおきた。特に作家の門田隆将氏が反対意見と過度な“揶揄”を行ったことを端緒に、いわゆる“極端に保守的な意見を持つネットユーザー(以後「ネット右翼」と呼称)”が番組を見ていない層も含めて特徴的なリアクションをとる現象が観測できた。
(前回:日米韓連携の試練④:なぜ松川るい議員の対韓外交論を誤解する人がいるのか?)
反応の内容を追うと「議員の説明で考えを理解した」という理性的な返信も一定数見られる一方、「議員には失望した」「安倍元総理に聞いたのか」「立ち位置を変えた」などの“声”の方があり、こちらの方が多数に見える。
しかしそれらは、あくまでも顕在化したリアクションに過ぎない。閲覧だけしている人が圧倒的多数であり、目立つ層だけを観て全体を類推するのは危うい。

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筆者は、松川議員と門田氏にリプライ(返信)を送ったツイッター利用者の返信内容まで精読した結果、「ネット右翼」層が相当程度参加しているものと推定した。本稿では、この「ネット右翼」と思われる層について考察して行く。
なお、「ネット右翼」は今だ“生木(枯れていない)”の言葉で、価値が現在進行形で変化している最中である。そこで、かつて大阪大学の辻大介准教授が調査に使った定義(※1)を本稿では暫定的に念頭に置くこととする。
また、いわゆる“ネトウヨ”という言葉には、本来の意味を大きく超えて”idiot”的な含意を込めて使う人もいるので筆者はこれを使わない。本稿の「ネット右翼」という単語には、そのような蔑視的意味合いは含まない。
※1 調査上の定義は“本調査研究では、これまで指摘されてきた特徴を最大公約数的に採って、a)中国・韓国への否定的態度(いわゆる「嫌韓嫌中」感情)、b)保守的政治志向、c)政治・社会問題に関するネット上での意見発信や議論、という3つの条件すべてを満たすケースを「ネット右翼」層と操作的に定義する。(同調査より引用、太字は引用者)
情報受領者としての国民側の事情:「ネット右翼」は目立つが「1%」に過ぎない少数派大阪大学の辻大介准教授は「計量調査から見る「ネット右翼」のプロファイル :2007年/2014年ウェブ調査の分析結果をもとに」のなかで「ネット右翼」について次のような分析を発表している。調査対象に関する特性や結論の一定程度の留保など、抜粋には誤解を誘引する要素があるので詳細は調査報告の原本を参照して頂きたいが、今回の反応に参考となる記述を列挙する。
ネット利用者全般における「ネット右翼」の比率は、実際には1%未満と見積もるのが妥当と思われる。
ソーシャルメディアのなかでは、Twitterの利用が活発なことが特徴的である。「ネット右翼」層でアカウントをもち、毎日利用する者は37.2%に上る。(略)FacebookおよびLINEについては、このような有意差は見られなかった。
「ネット右翼」層では、夕刊紙系のサイト(「ZAKZAK」「日刊ゲンダイ」)を挙げる割合が高く、また、一般紙系では「MSN産経ニュース」ネット企業系では「J-CASTニュース」「ニコニコニュース」といった保守的・右派的色彩の強いサイトへの接触率が高い。
ネットでは旧来のマスメディア環境以上に、情報の選択的接触(selective exposure)が生じやすいと言われるが(Benett and Iyengar 2008)、この結果は「ネット右翼」においてもやはり選択的接触がなされていることを示唆している。
ネットにかかわる行為・経験としては(略)「ネット上での呼びかけを見て、企業や団体に抗議のメールや電話をした」25.6%(対1.0%;p<.001)と、いずれも「ネット右翼」層のほうが対照層より高比率になっている。
加えて、「直接会ったことのない人を、ネット上で非難したり批判したりした」ことのある者は14.0%(略)と、トラブルの経験率も高い。
その背景には、(略)「ネット右翼」層は、「ネットに人を傷つけるような情報が載るのはしかたないことだ」「ネットで叩かれる側にも、叩かれるだけの理由がある」と考える傾向が強い。また、「ネット上で過激な書きこみや発言があっても、たいてい冗談半分で、本気ではない」ととらえて、ネットでの過激な表出行動を、いわゆる “ネタ ”として処理するような傾向も見られる。
(以上、前掲調査より引用、太字は引用者)