コロナ関連情報を曲がりなりにも理解するには、分子生物学の基本知識が要る。DNAやRNAなどの核酸化学、ウイルス学、細胞生物学や免疫学、またPCR法の原理なども。さらにはコロナ感染の社会への影響となると、感染症学や疫学、統計学、数学なども加わり、情報があまりにも多岐にわたり専門的かつ膨大となる。そのため、NHK番組などで全論文のAI分析などが行われているほどだ(この頃この種の番組を第5波以後、トンと見かけないが)。

具体的な例を挙げる。mRNAワクチンの安全性に関して「RNAは速やかに分解されます」「RNAはDNAと違って体内に長く残りません」などと説明されているが、筆者は信用していない。なぜなら、ワクチンに使えるようにするため、mRNAは短時間で分解されないように加工されており、実際、打たれたワクチンは脾臓その他種々の臓器・組織に行き渡ることまでは、ほぼ分かっているからだ(マスコミは決して言わないが)。ただし、その後の長期的安全性については分からない。接種後、長い年月が経っていないこともある。

以下は筆者の推論。RNAウイルスは逆転写酵素を持っており、自己のRNAを細胞内でDNAに換えるから、体内に残ったmRNA断片が逆転写されてDNAに「化ける」可能性はゼロではない。一度DNAになるとかなり長く体内に残り、場合によってはゲノム内DNAに組み込まれる(人類の進化は、このようにして異種のDNAがゲノムに組み込まれて進行してきたとの説がある)。また、帯状疱疹と言う病気は、体内に残った水痘(水ぼうそう)ウイルスが活動を再開することで発症する。つまり、体内にある種の核酸が存在し、ある年月の後に暴れ出すということが実際に起こり得るのだ。

これらを勘案すると、mRNAワクチンの長期的な安全性に関して、科学的には確かなことは何も言えないとするのが、正直なところではないだろうか? しかるに、政府や多くの「識者」は「ワクチンは安全で有効だから打て、打て」と薦める。これは、本当の意味で「科学的・合理的判断に基づく政策判断」と言えるのかどうか・・?もちろん、安全に100%はあり得ないとしても。

これと対照的なのが、地球温暖化や脱炭素をめぐる状況だと思う。「脱炭素」を進める論理は、ごく単純である。「人間の出すCO2が地球温暖化、ひいては気候変動を引き起こし、人類の破滅につながる危険があるから、CO2の排出削減=脱炭素に励もう!」と、これに尽きるのである。

この仮説が正しいかどうか確かめるには、やや専門的な知識が要る。つい最近出た「温室効果を再考する」などは説得力ある論説だが、一般人には少し専門的過ぎるかも。より簡単に言うならば「海の熱容量は大気の1000倍も大きいから、海水温の変動で大気温度は強く影響されるが、逆はない、つまり大気の温暖化で海水温が上昇することはない」と言う、筆者などのかねてからの主張と実質同じである。

この論説にも出ているが、実際に海水温の変動と大気温のそれは密接に連動している(前者が先で後者は少し遅れる)。この事実は、いくつかの環境関連サイトでも以前から指摘されている(例えばこのサイト)。また、太平洋十年規模振動(PDO)や大西洋数十年規模振動(AMO)などは、気象庁HPにも載っている。つまり、周知の事実である。

さらに、地球気温の人工衛星観測データも簡単に手に入るし、大気中CO2濃度変化のデータなどは、気象庁その他、どこでも入手出来る。つまり、一般人でも上記の「温暖化・脱炭素仮説」が科学的に正しいかどうか、自分で確かめてみる気があれば、比較的簡単に判断できる。ただし、偏見・先入観なく判断できれば、ではあるが。

要するに、情報が膨大で複雑に錯綜する新型コロナとは異なり、温暖化や脱炭素を考えるための材料はかなり揃っており、従って「正しい科学的な根拠に基づく合理的判断による政策立案」が相当程度、可能なはずである。しかし、筆者の見るところ、現実はそうなっていない。

その典型が、前稿でも触れた「GX実行計画」であろう。この計画には、信頼できる科学・技術的根拠が示されないまま、数十兆円規模の膨大な予算が計上されている。水素・アンモニアだけで7兆円以上。このために経産省では、水素・アンモニア課を新設するそうだ。