■ SNS運用は「仕事」ですよ

 企業のSNS運用ですが、以前より「これは仕事ではない」という声が少なからず寄せられます。もちろんそんなわけありません。「言いがかり」といっていいでしょう。

 会社が許可した上で公式アカウントが開設され、運用担当者(中の人)として就任した(任命された)なら、もうその時点で「仕事」であることは間違いありません。

 ではなぜ「仕事ではない」という誤解が生まれているのかというと「黎明期」が遠因にあります。

 当時のSNSはまさに革新的な発明でした。今のVRやメタバース同等の存在といえるでしょう。その中で、一部企業のSNSアカウントが、担当者の趣味や私的なことを発信したことで大いにうけ、注目を集めた時代があります。いわゆる「ゆるい」がキーワードとなっていた時代です。

 それは「企業が喋っている!」というエポックメーキングな出来事であり、大企業であればあるほど驚きでうけとめられ、ニュースとして取り扱われることも多々ありました。当時担当していた方はウケていたからやっていただけであり、当時も決して遊んでいたわけではありません。

 ただ担当者以外からみると、その意図した「ゆるさ」が「遊んでいる」とうつってしまったようです。

 しかしそんな運用が注目されたのは10年近くも前の話。「十年一昔」という言葉もあるように過去のことです。

 「運用スタイルは今でも継続している!」という声も聞こえてきそうですが、別にそれ自体は否定しませんし、SNSはそもそも「コミュニケーションツール」です。

 ただ、企業SNSに関しては「コミュニケーション」だけでは通用しない時代になっています。以前は「公式Twitterはコミュニケーションが8割、宣伝PRが2割」なんて謎の理論がありましたが、それもケースバイケースです。

 近年では運用割合を見直し、半々や、思い切って宣伝のみ、というところもあります。SNS運用における費用対効果や、この数年頻繁におきた「企業SNSの炎上」というリスクヘッジを考えたうえで行った、各企業の判断なのでしょう。

■ 「中の人」という表現について

 今回筆者が本稿を執筆しようと思った理由は、ある日聴いた「ラジオ」が発端でした。

 番組において、MCのアーティストが「たまたま有名な企業に就職できただけのサラリーマン風情が、企業アカウントの『中の人』を名乗り、時に論評を行うような自我を持つのが理解できない」といった旨を発言していました。これを耳にし、少なからずの衝撃を受けたのです。

 まず「4マス」に数えられる「ラジオ」で取り上げられるほど、「企業アカウント」が存在感を放っているということ。ちなみにこの番組は生放送ではないため、編集作業があるはずですが、カットされていないということは、発信価値があると事前に判断されたということになります。

 「発信価値」をどこに見いだしたかは定かではありませんが、MCの発言そのままを受け止めると、中の人は「Twitter」という世界でいかに支持されようとも、その他の世界では拒絶をされることもあるという事実。

 そもそも「中の人」という表現にも問題があると思います。これは言い得て妙な言い回しですが、昨今“トレンド”な「Z世代」のように、一括りにまとめられていることでもあります。

 話は変わりますが、私はとある食品ブランドの公式Twitter担当として、ほんの一時的にですが高く評価されていた時期がありました。任から離れ3年以上の月日が経ちましたが、残した実績は、客観的に見ても今後もそう真似できないものがいくつかあります。もっともそれは私自身が、でもありますけど。

 ただその実績は、日本でも最高クラスの知名度を誇るロングセラーブランドという「看板」があったからこそ。一方、評価が高まることで、各方面から「(ブランド名)の人」と呼ばれるようになったことになったのですが、それに強烈な違和感を抱きました。

 仮に私が気を良くして、「ブランドの顔」「ブランドの代表」のごとく振る舞えば九分九厘社内で失笑されたでしょう。それだけならまだいいですが、あわせて非常に厳しいお言葉をいただくことも間違いありません。

 しかも当時私が在籍していた頃は、当のブランドを世に送り出した「商品開発担当」が、生き字引として残っていました。両親と同世代でもあり、一人の人間として大変尊敬している方でもありました。そんな人を差し置いてまで名乗るなんてありえない話です。正直なところ、一種の気持ち悪さも感じました。

 といっても、大半は「Twitterでの話」と割り切っているのですが、企業アカウントの数だけさまざまな人がおり、中には「会社の看板」があってこそのアカウントへの支持・信頼という前提をわすれて、フォロワー数=自分の実力(運用担当者の人気)と本気で思い込んでいる人が残念ながら……。そういう担当者の方をみかけたら、今は顔をチベットスナギツネにして眺めるだけにしています。

 話を戻すと、ぶっちゃけ、SNSの担当者は銀行の窓口で担当する行員とそう変わりません。稀にある「社長が担当者」というケースを除いてですが。

 さて、近年の公式Twitterの中には、担当が表立った動かない運用法もあり(広告だけ垂れ流しているという意味ではありません)、それで一定以上の結果を出している企業も多く存在します。

 そもそもの話、「中の人」がクローズアップされているのはTwitterだけであり、他のSNSプラットフォームはそんな扱いを受けることはまずありません。純然な相性などの問題からTwitterにはアカウントを開設せず、他のSNSに注力している企業も多くあります。

 少し前までは、「SNS=Twitter」なんて奇妙な図式がありましたが、コアユーザーの年齢層が年々上がってきており、若年層はTikTokやInstagramに流れているというデータもあります。もはや「井の中の蛙」に過ぎないのがTwitter。「特別な存在」ではないことは意識しなければなりません。