目次
賠償金で荒稼ぎする「コピーライトトロール」の拡大懸念も
AI利用者には「説明責任」が伴う?
賠償金で荒稼ぎする「コピーライトトロール」の拡大懸念も
出井:
AIと著作権については、すでにいろいろと論点があります。ここまでお話ししてきた「AI生成物に著作権は発生するか?」もそうですし、「AIが他人の著作権を侵害した場合の責任は誰が取るのか?」「AI生成物に著作権が発生した場合、プロンプトの作者は著作権者に当たるのか?」といった問題もあります。
ぽな:
SNSを見ていても、すでに議論が山積みという印象です。AIが絡むだけでこんなにややこしくなるなんて……。
出井:
ほかに指摘されている論点としては、AI生成物の僭称(せんしょう)問題があります。コピーライトトロールとも呼ばれているんですが、作品をどんどん作って、似た作品を見つけた瞬間に「著作権の侵害だ!」と訴えて賠償金で荒稼ぎをする手法ですね。
AIによって、作品づくりがより早く、簡単にできるようになったので、コピーライトトロールがしやすくなるんじゃないか、という問題です。AI創作物には本来著作権が発生しないので、理論的には著作権侵害にはなりませんが、外見上、AIが創作したかどうかの区別はつかないですからね……。
ぽな:
以前、著作権封じをしているアメリカの弁護士のお話をうかがいましたが、ほんとにとんでもないことを考える人もいるんですね……!
出井:
今のところはまだ懸念レベルの話ではあるんですが、起こり得る可能性のあるトラブルですよね。しかも面倒なことに、著作権法上、こうした行為を取り締まることができないんですよ。
ぽな:
えっ!? どういうことですか!?
出井:
著作権法では、他人の著作物を、自分が著作者であると偽って表示した複製物を頒布した場合には「著作者名詐称罪」という犯罪が成立します。
ぽな:
じゃあ、「AIが作った作品」を「自分の作品」だと言ったらまずいじゃないですか。そんなに心配しなくても……。
出井:
ところが、その条文には「著作物の複製物を頒布したもの」って書いてあるんです。そしてAIが作ったものに著作権は……?
ぽな:
ない!!!
出井:
そうなると、この規定は適用できない。つまり、AIを悪用したコピーライトトロールについては著作権法では取り締まることができないということになります。
もちろん、詐欺や恐喝、業務妨害などにあたるとして、別の法律で取り締まられる可能性はあります。ただ、少なくとも現在の著作権法では何らの手当がなされていない状況になっています。
ぽな:
もう技術の進歩に法律が追いついていない感じですね……。
出井:
そういう問題が起きたとき弁護士としてどう対応するかを考えたら、「著作権侵害をしている」と名指しされた側の代理人として、「いや、それはあなたの著作物じゃなくて、AIが作ったから著作権はない」と反論するかもしれません。
ただ、これまで私も裁判はいろいろ見てきましたけど、少なくとも日本ではその作品が「人間による著作物かどうか」を争う裁判例って今のところ見たことがないんですよ。だってみんな、そこは争えないだろうと思っていたから。
ぽな:
これまでは前提として、「著作物は人間が作るものだ」という認識が共有されていたんですね。ただ、今後はそのあたりが裁判でも争われる可能性があると。
出井:
今後は、「私が作ったものです」「AIが作ったものではありません」という証明が必要になってくる可能性がありますね。ましてやAIを使った作品を世に出している場合は、なおさらそのあたりが問われていくことになるでしょうね。
ぽな:
今までの前提が覆される、大変な話になってきました……。
AI利用者には「説明責任」が伴う?
出井:
2022年、アメリカで画像生成AIで生成した作品の著作権登録が争われた事件が2件ほど起きています。
一つはある研究者が画像生成AIで作った作品を「作者:Creativity Machine」として著作権登録しようとしたケース。これは「人が作ってないから」という理由で、結局登録は認められませんでした。
もう一つは、画像生成AIの『Midjourney』で作ったマンガを著作権登録しようとしたケース。こちらは登録が認められたんです。
ぽな:
えええ、どうして!?
出井:
と、思いますよね。これは、ストーリーやレイアウト、つまりAIで生成された画像をどの順番で並べてマンガにするのか、といったところを人がやっていたんです。なので、マンガ自体には著作権が認められました。
ただその後、このマンガについてはアメリカの著作権局が著作権を取り消す手続きを進めていることが明らかになりました。これに対して、アーティストの弁護士は著作権を認めるよう求める文書を提出したそうです。今後、このマンガの著作権が維持されるかどうかが注目されます。
ぽな:
もう何が何だか……。法の解釈自体もまだはっきりとは決まっていないようなところがあるんですね。
出井:
ただ、ひとつ言えるのは、「説明の重要さ」だと思います。特にマンガのケースについては、ここまで人の関与したプロセスを説明できるのであれば、著作権が認められる可能性がある。逆に言うと、毎回ここまでやらなきゃいけないのか、という話になるんですが。
ぽな:
ああああ、めんどくさい……! 今の先生のロジックで行くと、AIを使っているクリエイターは創作のプロセスを全部説明できるように、第三者に証明できるようにしておかないといけない、という話にもなりそうです。
出井:
おっしゃるとおりですね。まさに今後はそういった対応が求められてくると思います。従来のようにAIを使っていない作品であれば、今まで通り作業していてもいいのかもしれないですが、AIを積極的に活用していくのであれば、自分の作品をいかに保護するのかという点まで作業段階で考えておかないといけません。そこも論点ですね。
ぽな:
AIを使って作業している限り、程度の差はあれ、「この作品に著作権はありますか」という問題からは逃げられないという気がしてきました……。
出井:
これは理想論ですが、本当はAI単体で何か作品を作ってやっていきたい場合は、「AIで作った」ということが対外的にわかるような形で運用していくべきなんじゃないかと思います。
著作権で保護されるもの、保護されないものをきちんと棲み分けできるように。たとえば、AIマークみたいなものを作品につけられれば、誰でも「AIが作ったんだな」みたいなことがわかるじゃないですか。
ぽな:
AIマークがついていたら、著作権は誰のものでもないから、という話になりますしね。
出井:
まあその場合、AIマークをどの程度でつけるべきか、という新しい論点が生まれますけどね……。
ぽな:
……。またしても、「どこまで人が手を加えればいいか」問題が発生するわけですね。本当に難しいです。いずれにしても、作業工程のあり方からして、今後は変わっていくことになりそうですね。