業界コストで価格が決まる
理由は、自社の輸入価格ではなく「貿易統計の輸入価格」を反映しているからだ。
東京ガスの料金は、液化天然ガスの「輸入価格」の上下を売価(立方メートルあたりの単価)に反映させる変動価格制だ。仕入額に利益を加えた価格で売る、という点では通常の「コストプラス法(※)」と変わりない。
※ 一定の利益額または利益率を製品のコストに加えて価格を設定する価格決定方法
違うのは、自社の輸入価格ではなく、「貿易統計の輸入価格」を用いること。つまり、自社の仕入額ではなく、他社含む「業界全体の仕入額」で「自社の売価」が決まる。他社が高い価格でガスを仕入れれば、業界全体の仕入額が高くなり、それが反映され売価も高くなる。いわば「業界全体のコストプラス法」だ。

東京ガス プレスリリースより
もし、自社が、これまでどおりの価格で仕入れる一方、他社が高い価格で仕入れてくれたら。コスト一定、売価アップ。自社の利益は飛躍的に増加する。
(大雑把に言えば)東京ガスがこの状態だ。
ガスの調達には「スポット契約」(スポット調達)と「長期契約」がある。高騰かつ増加しているのは「スポット調達」だ。東京ガスは「長期契約」が大半であるため、コストに大きな変動はなかった。
一方、スポット調達が多いガス・電力会社は、コストが増えた。たとえばJERA(株式会社JERA)だ。
JERAは、東京電力と中部電力が設立した、燃料調達・発電・販売を事業とする合弁会社である。2020年冬の寒波による電力需給ひっ迫時には300万トン、2021年には450万トン(過去最大)のスポット調達を実施。今年度も、スポット調達の影響で「1,145億円」コストが増大している(※3)。

JERA プレスリリースより
他社の高額なスポット調達が、貿易統計の平均原料価格を押し上げ、それが自社の売価に反映された。(相対的に)安価な長期契約調達が大半である東京ガスが、「結果として」利益を享受するカタチとなった。それが今回の「最高益」の顛末だ。
調達ポートフォリオが明暗を分けるとはいえ、長期契約が常に安価とは限らない。むしろ、2020年半ばまでは、スポット調達の方が安値が続いていた。長期契約価格の4分の1以下に下落した時期もある。長期契約とスポット調達をどのような比率で組み合わせるか。「調達ポートフォリオ」が利益の明暗を分ける。
東京ガスの 常務執行役員 CFO 佐藤 裕史氏は、
2021年度は(中略) 価格が上昇したLNGスポットの調達を可能な限り抑制することができました。(中略)長期契約中心の調達ポートフォリオや、ここ数年改善を重ねてきた需給調整の最適化オペレーションが奏功し、原料調達面での優位性につなげることができたと考えています。
(東京ガスグループ統合報告書 2022年3月期 )
と述べる。
だが、長期契約の需要は急激に高まっている。ロシアのウクライナ侵攻や、価格が不安定なスポット調達を嫌気し、欧州や中国の長期契約が増えているのだ。すでに、2026年ごろまで長期契約は「売り切れ」状態だという。今後、「調達ポートフォリオ」の構築は一層難しくなるだろう。