国内初の事例実現に向けて

もちろん現時点で、下水道事業の共同化とコンセッション方式の導入について、全てのステークホルダーの合意形成が済んでいるわけではない。

今後はおそらく、葉山町、逗子市、そして両自治体の住民との間で幾度となく協議がなされるであろう。運営を委託する民間事業者の選定も課題として残されている。

しかし、多くのステークホルダー間で、危機意識が一定程度共有できているという下地があるだけでも大きい。過去の歴史を踏まえつつ、新たな時代へ踏み出す試金石といえる計画であろう。

2022年度は、葉山町が逗子市の下水を受け入れた場合を想定し、設備の対応の可否や、広域化することによるメリットなどを確認した。主にハード面の検討である。

2023年度からは、ソフト面の検討へ進む。コンセッション方式で下水道事業を運営する際の課題の抽出や、官民の役割分担、広域化した際の効果検証などを踏まえ、事業化の可能性を探る予定だ。

自治体間連携と官民連携を掛け合わせた下水道事業の運営が実現すれば、「縮退社会における行政サービスの維持提供」という先の見えない課題に、一筋の光を通すこととなる。この先の動向にもぜひ注目したい。

<著者プロフィール>

小田理恵子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム
代表理事

大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。電力会社、総合商社、ハウスメーカーなど幅広い業界を支援。
自治体の行政改革プロジェクトを契機に、地方自治体の抱える根深い課題を知ったことをきっかけに地方議員となることを決意し、2011年より川崎市議会議員を2期8年務める。民間時代の経験を活かし、行財政制度改革分野での改革に注力。

地域のコミュニティと協働しての新制度実現や、他都市の地方議員と連携した自治体を超えた行政のオープンデータ化、オープンイノベーションを推進し国への政策提言、制度改正へ繋げるなど、共創による社会課題解決を得意とする。

現在は官と民両方の人材育成や事業開発(政策実現)の伴走支援・アドバイザーとして活躍。