葉山町と逗子市が共同化を進める理由

こうした背景がある中、神奈川県葉山町と逗子市は、下水道事業における共同化と公共施設等運営権(コンセッション)方式の導入を検討している。

コンセッション方式とは、利用料金を徴収する公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、運営権を民間事業者に設定する方式のことだ。

下水道のコンセッション方式は、これまで静岡県浜松市、高知県須崎市、宮城県、神奈川県三浦市で導入されている。しかし、自治体間連携による事例はまだない。実現すれば、国内初となる。葉山町と逗子市がこれを推し進める理由は何か?

①葉山町と逗子市の危機意識が一致

1つは、葉山町と逗子市の危機意識が一致していたことにある。

そもそも、公共施設やサービスの広域化・共同化は、立ち行かなくなってから検討していては遅すぎる。将来の人口減少に伴う利用者および処理量の減少を見据えて、先手を打つことが重要だ。その危機意識を、両自治体は共有していた。

②タイミングも一致

さらに、タイミングが良かったことも挙げられる。葉山町では2018年から、下水道の未普及の解消や既存施設の老朽化対策を目的として、設備の増設・更新の計画が進んでいた。

これに、将来を見据えた合理的な運用を加味できれば、設備が新しくなると同時に、下水道事業の持続可能な経営体制も作れることになる。そこで、逗子市との連携とコンセッション方式の導入の話が持ち上がった。

広域化・共同化の重要性を心得ている葉山町民

さて、ここで「住民との合意形成が置き去りになっているのではないか?」と、違和感を覚えた読者もいることであろう。実はこれに関しても、葉山町にはアドバンテージがあった。

葉山町では、かねてから「環境に配慮したエシカルな町」を目指し、官民一体型の取り組みが行われていた。

2019年から始まった「はやまクリーンプログラム」では、公共施設でのペットボトル飲料の取り扱い廃止や、27品目にも及ぶ家庭ごみの分別基準を設けたが、町民は「大好きな町の環境が良くなるなら」と積極的に参加したという。

この背景には、葉山町がかつて、横須賀市・三浦市と3者で進めていたごみ処理広域化計画から離脱した過去が関係する。

記事の冒頭に述べた広域化・共同化の難しさゆえ、葉山町は当時の協議から離脱したわけだが、その結果2市から裁判を起こされ、単独稼働させた町のごみ処理施設もダイオキシン問題が発生して稼働が停止。たちまちごみ処理が立ち行かなくなった。

よって、葉山町は行政も住民も、すでに公共施設の広域化・共同化の重要性や、ごみ問題の深刻さを理解しているわけである。