【パウエルFRB議長の記者会見、質疑応答のポイント】
〇冒頭の原稿
―総括 「物価高が引き起こしている苦難を理解しているからこそ、インフレ率を2%の目標まで引き下げることに強くコミットしていく」 「昨年にわたり、我々は金融政策の引き締めるべく強力な行動を取った」 「我々は(利上げにより、低下した金利分を)大幅に取り戻したが、急激な引き締めの完全な効果はまだ実感できていない。まだ大いにやるべきことが残されている」 「物価の安定は、Fedの責任であり、経済の基盤として機能している。物価安定なくして、経済は誰のためにも機能しない。特に、物価の安定なくして、全ての人々に恩恵をもたらす強い労働市場の状態を持続的に実現することはできない」 「FOMCは政策金利を0.25%ポイント引き上げた。物価を2%に戻すべく、十分に引き締め寄り(sufficiently restrictive)な金融政策姿勢を実現する上で、継続的な引き上げが適切と考える」 「さらに、保有資産の規模を大幅に縮小するプロセスも継続している」
※利上げ幅を縮小させたが、利上げは継続するとの意思を改めて強調。
―米経済 「米経済は昨年の急速な拡大ペースから大幅に鈍化し、実質GDP成長率は潜在成長率を下回る1%台だった」 「足元の経済指標は今期、緩慢な支出と生産の拡大を見込む」
―個人消費 「個人消費の伸びは、昨年の金融引き締め環境を一部反映し抑制されたペースで拡大しているようだ」
―住宅市場 「住宅部門の活動、住宅ローン金利の上昇を受けて大幅に弱まり続けた」
―企業活動、輸出 「金利上昇と生産の伸び鈍化は、企業の固定資産投資の重石となっているようだ」
―労働市場 「成長鈍化にも関わらず、労働市場は極めてひっ迫し続け、失業率は50年ぶり低水準で、求人数は依然として非常に高い水準にあり、賃金は高止まりしている」 「雇用増加のペースは昨年に鈍化し名目賃金の上昇ペースも鈍化の兆しがいく分みられるが、労働市場は均衡を欠いている。需要は供給される労働力を上回っており、労働参加率は1年前からほぼ変化していない」
※米12月雇用統計が堅調な結果だったため、前回からと変わらず。
―物価 「物価は目標値の2%を依然として大きく上回っている」 「過去3カ月間のインフレ指標は、歓迎すべき上昇ペースの鈍化を示した。足元の動向は心強いが、インフレが持続的に低下していることを確信するためには、さらに多くの証拠が必要である」 「インフレは高止まりしているが、家計調査で幅広く反映されるように長期インフレ見通しは安定的にとどまっている。しかし、だからといって安心できない」 「足元の高インフレが長引くほど、定着する可能性が高まる」
※足元の物価指標の鈍化に言及も、前回に続き早期の利下げ期待を高めないよう「さらに多くの証拠が必要」と釘を刺す。
―金融政策 「Fedの金融政策に関わる行動は、米国人のため雇用の最大化と物価安定を促進するという統治目標に基づく。我々は高インフレが購買力を低下させ、特に食料、住宅、交通などの必需品のコスト上昇に対応できない人々にとって大きな苦難をもたらすことを痛感していいる」 「インフレが私たちの任務の両側面にもたらすリスク に強く注意を払い、インフレ率を2%に戻すことに強くコミットする」 「我々は、インフレ率を長期的に2%へ戻すべく十分に引き締め寄りな金融政策姿勢を実現すべく、継続的な利上げが適切であると予想している」 「金融環境は政策対応を受けて大幅に引き締まり、住宅など最も金利の影響を受けやすい経済セクターの需要に効果が現れている。しかし、金融引き締めの効果が完全に現れるには、特にインフレ動向においては時間がかかるだろう」 「金融政策の累積的な引き締め効果と金融政策が経済活動やインフレに影響を与えるラグに鑑み、本日、前回の急速なペースから減速させ、25bpの利上げを決定した」 「利上げペース鈍化への移行を受け、委員会は統治目標に向けた経済の進捗をより適切に評価することが可能」 「委員会は、経済指標や経済活動と見通しへの示唆など総合的に判断して、会合毎に決定を行う」 「需要を抑制し、供給と整合的とさせるべく、強力な手段を講じてきた。我々の包括的な焦点は、手段を用いてインフレ率を2 %に戻し、長期的なインフレ期待を安定させることだ」 「インフレを抑えるには、成長率がトレンドを下回る期間と労働市場の軟化が必要だ」 「物価安定は回復は、雇用の最大化と長期的な物価安定を達成する上で必要不可欠である」 「過去を振り返ると、拙速な政策緩和を強く戒めている。我々は、責務を完遂するまで、その方針を維持する」
※前回、少なくとも2回使用した、適切な金利水準まで「まだ道半ば(some ways to go)」の文言を削除。さらに「前回会合後に公表された経済指標は、当初の予想より政策金利の最終地点が高いことを示唆する」との文言を使用せず、利上げの最終地点が近づいた可能性を示唆。インフレの上昇圧力だけでなく、下方圧力にも注意する姿勢を打ち出し、同様に利上げ停止への地ならしを行ったと判断される。
〇質疑応答
―金融政策について 「我々は、短期的な動きではなく、より広範な金融環境の持続的な変化に焦点を置く」 「そして、まだ十分に制約的な政策姿勢に至っていないというのが我々の判断であり、だからこそ、継続的な引き上げを見込むとお伝えしている」 「我々は4.5%の利上げを行ってきたが、適切に制約的な水準に達する上で複数回(a couple of)の利上げを議論している。インフレが依然として高水準にあることがその理由だ」 「(FedがFF金利を5%以下にとどめることについて)もちろん可能だ・・・Fedは深刻な景気の落ち込みや急激な失業率の上昇を伴わずに物価を目標値2%に引き下げることができる」
※複数回の利上げを示唆し、利上げ余地を確保。
―年内の利下げの可能性について 「我々の見通しに基づき、且つそれが実現するならば、年内の利下げを予想しない」 「(米債市場が利下げを織り込む状況について)懸念していない」 「インフレがより迅速に減速するならば、金融政策に反映させる」
※市場の利下げ期待をけん制。
―インフレ動向について 「(物価上昇の抑制を達成したとする)勝利宣言は、時期尚早だ」 「これまで労働市場を犠牲とすることなく、ディスインフレを確認しているのはよいことだ」 「初めてディスインフレ段階が始まったように思う。我々は現時点で、財の分野でそれを確認している」 「ただし、住宅を除くコアのサービス分野でディスインフレは確認できていない」
※インフレ抑制の姿勢を強調しつつ、財の分野でのディスインフレ状況を確認。