3.5. 新型ICEVs販売を禁止する提案のインパクト(影響)

英国政府がBEVsを増やそうと望むにしても、新しいICEVsの販売を禁止することはナンセンスである。2030年までにはICEVsの販売を禁止するつもりのようだが、その影響は大きい。消費者が2031年にはICEVsを買えなくなるだけでなく、内燃機関の研究開発に携わる多くの技術者・研究者の職を奪い、ひいては英国の自動車産業を破壊することになる、と著者は主張する。

BEVsは、現在の政府が推進していることもあり、将来、確実に急速に増えるだろう。しかし、これまで述べてきた種々の環境負荷(バッテリー製造、充電負荷その他)と必要コストを考慮するなら、BEVsだけを唯一の解とすべきでなく、他の選択肢(ICEVs、HEVs、FCVs(燃料電池車)、代替燃料など)なども捨てずに開発研究を進めるべきである。

その際必要なのは、各選択肢の有用性を正確なLCA的な手法で見積もることだ、と述べている。これもまた、しごく尤もな主張である。

4. 「(社会の)存続の危機」はどれほど深刻なのか?

脱炭素がどれほどのペースで必要であるかは、「(社会の)存続の危機」がどの程度に深刻かつ差し迫っているかに依存する。しかし実際のところ、人類は過去の気温上昇(産業革命以後1.1℃以上とされる)に対し、経済的な繁栄と技術進歩によって上手く適応してきたのである。

例えば、過去60年間で人類の福利指標(貧困・飢餓からの脱出、教育水準、子どもの死亡率、食料生産など)はどれもが改善されている。

※ 筆者注:これらの具体的なデータに関しては、以前紹介したクーニンの本「気候変動の真実-科学は何を語り、何を語っていないか」や、杉山大志氏の「地球温暖化のファクトフルネス」などを参照されたい。まずは実際的な統計データに触れることが大切である。

またNASAの衛星観測によれば、過去35年で地表の植生は顕著に増えており、その主要な原因は大気中CO2濃度の増加によるとされる。植生の増加はCO2吸収だけでなく、水蒸気の蒸散作用によって土地を冷やす役目も果たす。つまりCO2増加は環境にとってプラス要因にもなる。

※ 筆者注:最近のnatureにも「二酸化炭素肥沃化が緑化を増大させる」との記事が載っている。

さらに種々の自然災害(旱魃、洪水、極端な気温や気象、地滑り、山火事、火山、地震等)による死者数は、この100年間で95%以上減っている。化石燃料を使って経済発展した国の方が、堤防建設や農業技術の向上等により、自然災害への抵抗力が増している。歴史が示す通り、特に貧しい諸国において、より多く「富む」にしたがって、人々の環境や自然への対応力が増すのだ。

経済面では、2100年までに地球平均気温がたとえ4℃上昇しても、世界のGDPは3.64%しか減らないとの試算がある。これと比較して、EUでは2050年までの気候変動対策費として毎年GDPの10%ずつ支出すると言うが、これでは計算が合わない(つまり無駄な支出である)。

要するに、気候変動そのものは事実であるとしても、データが示す限り、それが「(社会の)存続の危機」に直結するとは言えないわけで、我々としてはどんな政策を選ぶとしても「後悔しない(no regretな)」選択をすべきである、と本論文の著者は言う。

そりゃ、そうだよね。大枚はたいて対策したのに、ちっとも効果が出ない、失敗だったなあ・・なんて、誰も言いたくないから(筆者の考えでは、人類の出すCO2は自然界の5%以下に過ぎないので、人間界がCO2削減=脱炭素などいくらやっても、自然界に現実的な効果は出ないはずだ)。