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前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。
(前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文④)
3.4. BEVsと大気の質BEVs(電気自動車)は、ICEVs(内燃機関=エンジンで走る車)と違い、排気ガスを出さないので未燃焼炭化水素(UHC:unburned hydrocarbons)や窒素酸化物(NOx:nitrogen oxides→酸性雨・オゾン層破壊の原因物質の一つであり、UHCと反応して光化学スモッグやPM2.5の生成物質にもなる)を排出しない。
しかし前稿で述べたように、大気汚染の代わりにBEVsを使う国からバッテリー用資源の採掘国に環境負荷を輸出しているのと同じである。
現状では、最新式のディーゼルの排気ガスは非常にきれいになっており、NOxや微粒子の排出量もごく少なくなっている。排気ガスよりもタイヤ(の摩滅や道路との摩擦)から生じる微粒子の方が問題なくらいである。BEVsは重いバッテリーを積んでいるので、総重量がICEVsよりも20〜30%重く、従ってタイヤ由来の微粒子が多く発生する。BEVsの台数が増えれば、大気質にも影響が現れる可能性がある。
つまり、現在の政策目標ではCO2や温室効果ガスを減らすことに重点を置かれているが、LCAの手法を用いてBEVsを増やしたときのCO2排出削減量を正確に見積もるべきだし、BEVsが増えることによる種々の環境影響(バッテリー製造の環境負荷、充電時の電力負荷、タイヤ由来の微粒子など)と、BEVsを増やすのに必要なインフラ投資額なども考慮して政策を決めるべきだと主張している。
まことに当たり前の主張だが、CO2排出削減=脱炭素しか頭にない人たちには浮かばない、現実的な発想と言えるだろう。