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東京五輪・パラリンピックのテスト大会の企画立案業務をめぐる入札談合事件で、東京五輪組織委員会(以下、「組織委」)大会運営局の元次長が入札参加企業に対し、メールなどで応札の可否や電通との調整を指示していたとして、特捜部は元次長を、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑の共犯としての立件を視野に捜査していると報じられている(【五輪談合、組織委元幹部が調整指示か 立件へ捜査詰め】1/29日経)。
これまで、多くの事件で東京地検特捜部の捜査を厳しく批判してきた私も、今回の東京地検特捜部の東京五輪汚職事件の捜査、それに続く東京五輪談合事件の捜査に対しては、「東京五輪の闇」を解明する捜査として、基本的に評価する立場であり、応援する旨明言してきた。
とは言え、入札談合事件については、独禁法違反による東京地検特捜部と公正取引委員会の合同捜査ということだったが、報道されている事実関係からすると、独禁法違反としての構成にも、多くの問題があると思われたことから、公取委への出向経験があり、東京地検等で独禁法違反事件の調査・捜査に関わった実務経験を有する私と、元公取委審査局長の野口文雄氏、独禁法学者の上智大学楠茂樹教授の3名で「東京五輪談合問題検討チーム」(略称、「GNKチーム」)を結成し、独禁法3条後段の「不当な取引制限」だけではなく、同条前段の「私的独占」の適用の可能性、公契約関係競売入札妨害罪、官製談合防止法違反等の成否も含めて、幅広く検討し、その結果を、「東京五輪談合事件に関する実務上、法解釈上の問題点の検討」(以下「GNK検討レポート」)と題して、2022年12月8日に、郷原総合コンプライアンス法律事務所のホームぺージにアップした。それも、基本的には困難な捜査に取り組む検察の捜査を応援したいという思いからだった。
しかし、事件の捜査が大詰めに来ているような雰囲気になった現時点での報道の内容からすると、本件の「入札談合」が、果たして、独禁法の「不当な取引制限」の罪に問い得る事件なのか、そもそも、独禁法違反に問う前提となる「競争制限」の実質を伴うものなのか、疑問が生じていると言わざるを得ない。
GNK検討レポートも、その後の報道等を受け、2023年1月30日に更新している。
本件談合事件は、検察の東京五輪汚職事件の捜査の過程で問題化したものであり、公取委との合同捜査と言っても、検察主導で行われているものと思われるが、独禁法違反として刑事罰を問うためには、独禁法としての解釈の限界がある。入札談合は、いかなる場合に、独禁法違反の犯罪となるのか、改めて、基本的な視点から整理してみる必要があるだろう。