例えば、マングローブは一般的な木々と比較し最大50倍多くのCO2を貯蔵できるのですが、シーコロジーという環境保護団体は、現地住民に対してマングローブ保護に関連した生計訓練とマイクロローンを提供することで、経済的安定性の向上、栄養と健康の向上、高潮に対する回復力の向上、地球温暖化の改善に貢献しています。

インポッシブルフーズという食品会社は、肉製品の市場需要に取って代わる植物ベースの代替肉を提供することで、生活習慣病対策や水資源の保全、CO2削減に貢献しています。

プラネタリーヘルス実現に向けた衛星データを利用した取り組みとは
(画像= プラネタリーヘルスに資するプロジェクト例Credit : UNFCCウェブサイト、『宙畑』より引用)

日本での動きはまだ少ないものの、長崎大学が中心となってプラネタリーヘルスの普及に取り組んでいます。

例えば2020年に「プラネタリーヘルスに貢献する大学」を目指す宣言を行い、カリキュラムにプラネタリーヘルス科目を組み込むことで次世代の教育や専門人材育成であったり、研究分野では産学官金が一体となって地域と地球規模の課題解決の実現に取り組んでいます。

小柴:近頃プラネタリーヘルスという用語が広まってきたことによって、これまであまり注目されていなかった分野、例えば栄養と温暖化の関係や保健分野への衛星データ活用等が進展していくのではないかと感じています。

他にも、国内の動きでブルーオーシャンイニシアティブの立ち上げは興味深いものです。直接観測可能な陸上生物の多様性は従来から注目されていました。

しかしながら、海洋生物の場合は、漁業で禁漁期間のようなものは設定するものの、基本的には天然資源を搾取し続ける構造になっており、陸上生物ほど生物多様性への対応が進んでいません。

日本でも近大マグロ等の養殖の事例は出てきているものの、まだ一部の動きでしかありません。天然資源の状況がそもそもよくモニタリングできていないという課題認識があって、ここを解決していこうとブルーオーシャンイニシアティブでは取り組んでいくと聞いています。

— プラネタリーヘルスに関連して、貴社ではどのようなことに取り組まれているのでしょうか?
小柴:まずは私たちのチームのことを少しお話させてください。

私たちが所属する三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループの総合シンクタンク・コンサルティングファームです。経営コンサルティングビジネスやパブリックセクター向けの政策立案・政策の実行支援をする事業がメインビジネスです。

私たちはソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部に所属しているのですが、上述の基幹事業の横で、10年後の新たなビジネスとして、今後どういうことを手がける必要があるかを考えることがミッションになっています。

特に私たちのチームは、グローバルヘルスやプラネタリーヘルスというキーワードで、日本と世界に存在している健康・ヘルスケア関連の様々な課題に対する新しいソリューション提供に取り組んでいます。

グローバルヘルス関連では、新型コロナウイルスのような感染症対策や生活習慣病(NCDs:非感染性疾患)に関連した取り組みに携わっています。

我々は病院のように治療そのものを提供するのではなく、医療機器や新たなソリューション開発を関連分野のメーカーやアカデミアと共創することで、ソリューションやそれが活きる環境を創ろうとしています。

また、プラネタリーヘルス関連では、最近国内外でも注目が高まっている予防・未病と呼ばれる領域に、デジタルテクノロジーやデータ活用を通してどういう貢献ができるかといった観点での新規事業開発にも注力しています。

例えば、人工衛星データと保健医療データを組み合わせることで大気汚染や気温変化をモニタリングしながら疾患リスクアラートを発令するシステムを構築する事業をインドネシアで進めようとしています。

他にも、オーラルケア(口腔)領域では、メーカーと連携して歯磨きを通して得られる口腔データを活用して全身疾患との関係性をより高精度に予測できる仕組みを構築しようとしていたり、メンタルヘルス領域では、VR用ヘッドアップディスプレイを用いて、子供向けのメンタルヘルスや発達障害サポート事業を官民連携で取り組もうとしています。