追放された専門家
その一方で、ESGへの批判は西欧でもまだまだリスクが伴うようで、2022年5月には、かつてHSBCアセットマネジメントでグローバルリサーチの責任者をしていたStuart Kirk氏が、ESGに関する厳しい事実を述べたとして解雇されている。
ESGに懐疑的な意見を出したこのKirk氏については、解雇などせず、例えばアメリカの元副大統領で現在は強力にESGを推進しているアル・ゴア氏あたりと、そんな「不都合な真実」について公の場で討論をさせ、どちらの主張の方がより論理的で説得力があるのかを世間に判断させる材料にした方が、地球環境問題を真剣に考えるという点では良かったのではないかと個人的には思う。
Kirk氏の批判に対してESG推進派には太刀打ちできないと判断されたからこそKirk氏はESGの土俵から追われたのではないか。
ウクライナ情勢も絡み、世界情勢の変化と共にESGを巡る目線も刻々と変化しつつある今日、ESG礼賛や神聖化だけではなく、様々な角度から相反する情報をもしっかりと仕入れて咀嚼し、世界情勢の行方を睨みながら、自社の推進していく方向性を熟考することが企業の生き残りにとってますます重要になりつつあるだろう。
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明林 更奈 ジャーナリスト。一橋大学卒業後、金融機関にてESG関連業務を担当。国内外の国際会議等に参加し、また欧州やアジア、アフリカ等世界各国での現地視察も行う。その中で日本における企業のESG対応や報道に大きな危機感を持ち、複眼的・重層的な議論ができる社会形成に貢献すべく発信している。