日本における一方的なESG礼賛

ESGとは、企業が長期的成長を目指す上で重視すべき3つの分野、すなわち、

環境(Environment) 社会(Social) ガバナンス(Governance)

の頭文字から取られた言葉である。

今日、このESGに対する配慮が欠けている企業は、投資家などから企業価値毀損のリスクを抱えているとみなされるようになっており、これらを重視することで、長期的な経営基盤の強化につながると考えられている。

ESG推進の動きは元々、西欧が震源であり、いまや日本も官民を挙げてこのESGを推進しているが、当の西欧ではこのESGに賛成する意見のみならず、懐疑派・反対派から出される様々な論文や記事も同時に公開されており、特に2022年はその傾向が強まった年であった。

しかし日本では、本音ではこのESGそのものに疑念を持つ向きも少なからずあろうはずであるが、なぜかESG礼賛の記事だけが溢れ、懐疑的な記事の紹介はほとんど見当たらない。

プーチンを助けるESG推進

そんなESGに対するもやもやを 多少なりとも解消してくれるのが、2022年末に出された「2022: The Year ESG Fell to Earth」という記事だ。これを書いたのは、気候変動問題の推進に潜んだ危険性に鋭く斬り込んだ『Green Tyranny: Exposing the Totalitarian Roots of the Climate Industrial Complex(仮訳:グリーンという名の圧政:気候変動産業複合体における全体主義的な根源を明かす)』を上梓したRupert Darwall氏である。

Darwall氏は同記事の中で、昨年株式市場において世界最大の資産運用会社であるブラックロック社のESG Screened S&P 500 ETFが22.2%下落する一方、S&P 500 Energy Sector Indexは54%上昇したこと指摘し、西側諸国の石油ガスへの投資を制限した結果、プーチン大統領がエネルギー供給を兵器化することが可能になったのだと批判している。

事実、2022年12月のはじめには西側第3位の銀行であるHSBCが新しい油田・ガス田への融資を停止すると発表し、結果的にロシアと西側の間のエネルギー戦争においてプーチン側にさらに「加勢」する形になっている。「2022年はネットゼロへ向けた強制的なエネルギートランジション以降の最初のエネルギー危機の年となった」とするDarwall氏の指摘は正しいだろう。