ESG懐疑論が沸騰した2022年

実際2022年は、ESGの株式市場自体はまったく冴えなかっただけでなく、12月にはバンガード社がNZAMから脱退したことが大きな話題となった。

NZAM(The Net Zero Asset Managers initiative)とは、2020年12月に発足した資産運用会社の国際的なイニシアティブのことで、参画した機関には2050年までに二酸化炭素ネット排出量をネットゼロにするコミットメントを行うことが義務づけられているもので、バンガード以前にもNZAMから脱退した金融機関はあったが、世界第二の預かり資産残高を誇る資産運用会社あのバンガード社がここから脱退したことは大きな意味を持つ。

脱退したバンガード社は「インデックスファンドの役割と、気候関連リスクを含む重大リスクに対する我々の考え方を、投資家が望む形で明確にするために、NZAMからの脱退を決定した」と発表したが、これはすなわち健全な投資家の目から見れば、気候変動問題の論理的構造や信頼性に根本的な脆弱性があることを示唆しているのだろう。

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このニュースの2ヶ月前の2022年10月には、ロンドンビジネススクールのAlex Edmans教授が「The End of ESG(ESGの終焉)」という論文を公表しているが、その中でEdmans教授は、ESG正当化の根拠とされてきた「気候変動に取り組むことは投資家により高いリターンをもたらす」という考え方を真っ向から批判している。

教授は、気候変動といった「外部性(すなわち、ある主体の経済行動が当事者には関係のない第三者に与える影響)」に対処する上では、国民から選挙で民主的に選ばれた政府こそが最適な立場にあるはずだが、その一方で「投資家という存在は、ごく一部の裕福なエリートだけを指している」と指摘した上で、「もしESGがそんな外部性のために必要とされるのであれば、企業や投資家は、それがみずからの価値を犠牲にする可能性があることを明確にする必要がある」と述べている。

つまり、気候変動への取り組みは、投資家に高いリターンをもたらすだけではなく、その逆もまたあり得ることをはっきり述べるべきだ、というわけだが、ここまではっきり言われてしまうと、利益追求を行うべき企業が積極的にESGを推進すべきとする根拠そのものが怪しくなってくる。

さらに同じ10月には、ブラックロック社の元シニアエグゼクティブ、Terrence Keeley氏が著した『Sustainable: Moving Beyond ESG to Impact Investing(仮訳:持続可能なESGを超え、インパクト投資へ)』という書籍が出版された。Keeley氏は従来のESG投資商品ではあまり良いパフォーマンスを上げることはできないとし、「良いことをするのではなく、良い気分で終わる可能性が高い」と述べている。

ブラックロック社については、2018年から19年にかけて同社でサステナビリティに関するグローバル・チーフ・インベストメントオフィサーを務めていたTariq Fancy氏も「ESGは危険なプラセボ(偽薬)だ」と主張しているが、この世界最大の資産運用会社にいた複数の元幹部からこのようなESG批判が行われていることは興味深い。