以上から分かることは、国債の「60年償還ルール」を見直しても、財政赤字は全く変わらず、新たな財源は1円も捻出できないという揺るぎない事実だ。これは、60年償還ルールの見直しで、80年償還に長期化せず、40年償還に短期化しても同じことが言える。

不思議に思う読者もいるかもしれないが、このような問題が発生するのは、日本財政が膨大な債務を抱え、もはや自転車操業に陥っているためだ。

2023年度予算案をみても、歳出は税収を上回っており、そもそも1000兆円もの債務を返済する税財源はない。では、1000兆円もの債務はどう返済しているのか。先に答えをいうならば、実質的に1円も返済していない。1000兆円もの債務の中身は、2年や5年、10年・30年といった期間で返済すること約束した国債の合計額だが、平均的な返済期間(専門用語で「平均償還年限」という)は約10年だ。なので、日本財政は平均的に毎年度100兆円もの返済を迫られている。

しかしながら、図表(2023年度予算案)をみても分かるとおり、100兆円もの税収はなく、むしろ社会保障関係費や防衛費などの歳出を賄うため、新規に国債を発行して歳入を確保しているのが現状だ。このため、債務の返済はできておらず、財政当局は、債務を管理する「国債整理基金特別会計」を設置し、返済が迫られる国債を返済するために、図表とは異なる国債を新たに発行して返済している。この処理を「国債の借り換え」、そのために発行される国債を専門用語で「借換債」といい、最近は、毎年度100兆円以上もの借換債を発行している。

というのも、100兆円は平均的な返済額で、厳密には年度毎によって国債の返済額が変動するためで、2023年度の借換債の発行額は157.6兆円だ。なお、図表の国債を「新規国債」というが、この新規国債と借換債の合計だけで約194兆円の発行になり、それ以外の財投債を含め、2023年度の国債発行計画では概ね205.8兆円もの国債を発行予定だ。

以上から分かると思うが、60年償還ルールに従い、債務償還費を計上して、債務(国債発行残高)を返済しているように見えるが、実際の日本財政は借金漬けで、返済しておらず、毎年度、国債発行残高が増加し続けている。

一部でも返済するためには、債務(国債発行残高)が減少する必要があり、それは財政赤字がゼロとなり、財政収支が黒字化したときだ。黒字化の条件は、財政赤字の定義から、「債務償還費>公債金収入」となり、2023年度予算案では、債務償還費が35.6兆円を超えない限り、債務の増加が止まらないことを意味する。

もっとも、経済学的には、債務(国債発行残高)が増加しても、名目GDP比で評価した「債務残高(対GDP)」が安定的に推移していけば問題ないが、既に日本の債務残高(対GDP)は200%を超え、現在も膨張し続けているという現実も忘れてはいけない。