それぞれがレベル1(最低)の7kWで充電するとしても、100万台では7GW(=700万 kW)の追加電力が必要になる。ヒンクリーポイント原発が2箇所以上必要になる。

※ 筆者注:同原発は2014年に英仏共同で作られることになったもので「世界で最も高価な原発」として有名。

実際には、英国政府は22年5月末に、EV用充電器はピーク負荷時間帯には充電できないように設定すべしとの規約を設けた。BEVsドライバーたちには、ますます不便になる。

私事で恐縮だが、筆者は最近、車を買い換えた。16年間乗った25年モノの愛車(中古で買った時に既に9年ものだった)を遂に諦めたから。交換部品はとうに製造中止、空調を修理すると35万かかると言われ、ドアミラーが時々閉まらなくなるシロモノだった。

もはや長距離は乗らないが地方都市では日常の足としての車は必需品である。老夫婦二人きりだし、軽で良いよな。軽にハイブリッドは未だないから、今流行の電気自動車はどうかな?・・でも価格がまだ高い。それに集合住宅の駐車場に充電施設はないので、自前で作らないと。その工事費を含めると補助金55万円でもまだ高くて手が出ない(筆者はエコ住宅や車を買うのに税金で補助する制度自体に不賛成なのだが)。

カー・リースも検討したが、条件的に満足できず。結局「普通の」軽自動車(ICEV)を買った。この論文で指摘されている電気自動車の問題点に、いちいち思い当たった。

またついでながら、最近発表されたソニー・ホンダモビリティの新しいコンセプトEVには大いに失望したことも書いておこう。彼らが富裕層しか見ていないことに失望したのである。

ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」AFEELA公式ウェブサイトより

多くのユーザーは、車に「劇場空間のようなエンターテインメント性」など求めていない。下駄代わりの足として、購入時に安くて燃費が良く、運転しやすく安全性の高いクルマを求めているのであって、それ以外は些事に過ぎない。あの発表されたEVの豪華な仕様・装備では、たぶん500万円以下で買うのは困難だろう。筆者のような一般庶民には、手が届きそうにない。

3.3. 英国で2030年までにBEVsに転換するための現実的なCO2インパクト(影響)

英国では、自動車やバン(比較的軽量な車両:LDVs)が交通分野のエネルギー消費の約70%を占める(ちなみに航空分野は12%)。上記のように、BEVsはLCA的に見て「CO2ゼロ」の車ではないが、欧州基準では、同規模のICEVs(内燃機関を積む車)より25%ほど温室効果ガス排出量が少ないとされる(IEAの最新研究による)。

故に、上記のごとく、英国で2030年までにBEVsを1000万台に増やす(LDVsの28%になる)として、削減できる温室効果ガス排出量は、交通分野全体の4.9%しかない(LDVsが交通全体の70%、その28%がBEVs、BEVsのCO2削減率が25%:0.7×0.28×0.25=0.049)。

21年末で36万台しかないBEVsを30年までに1000万台まで増やすとしても、そうなのである。この状態でもICEVsが70%以上を占めるので、仕方ないと言えばそうなのだが。

結論として、CO2を4.9%減らすためにBEVsを36万台から1000万台に増やすことは、バッテリー製造の環境負荷やこれらのBEVsが一斉に充電するときの電力負荷を考慮すると、トクにはならない。むしろ、LDVsの大きな部分を占めるICEVsの効率(=燃費)を向上させ、排気ガスをきれいにする方が効果的である。

また、トヨタプリウスのような部分的な電動車(HEVs:ガソリンエンジンで発電しモーターとエンジン両方で走る)は、BEVsよりもバッテリーがずっと小さくて済むので有利であり、温室効果ガス削減の意味でもBEVsよりお勧めの選択肢だと、本論文の著者は述べている。

欧州では、将来的にHEVsの販売も禁止しBEVsだけにしようとしているが、それに真っ向から反対する立場である。筆者もこれに賛成する。現実を直視すれば当然そうなる。

(次回に続く)

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