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前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。

(前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文③)

3.1. 電気自動車(BEVs)の環境負荷

一般に、BEVs(電気自動車)はCO2や排気ガスを出さずに走るので「ゼロエミッション」と呼ばれ、実際、市販のBEVsにはそのようなロゴが付されているし、CO2排出削減に役立つと信じられている。

しかし実際には、もしも、製造や走行に使われる電力がCO2フリー(CO2を出さずに得られる、の意味)でない場合には、BEVsは、ICEVs(従来型のエンジン=内燃機関で走る車)と比べて、CO2排出削減の意味はさほど大きくない。なぜなら、バッテリー製造には同サイズのICEVsと比べて遙かに大きなエネルギーを要するからだ。

この場合に役立つのは、LCA(life cycle analysis)である。LCAとは、ある製品(この場合は自動車やバッテリー)の「揺りかごから墓場まで」、つまり資源採掘から原料製造、製品組み立て、使用から廃棄(中間処理、リサイクル、最終処分)までの全過程を対象に、エネルギー消費量や環境汚染物質排出量などをできるだけ正確に見積もる手法である。

概念的には極めて有用な考え方であるが、実際に正確に定量的に見積もろうとすると、対象範囲をどのように取るかや、採掘などに要するエネルギーをどう計測するかなどで難しい問題に遭遇する。本論文でも「honest assessment」(正直、公正な見積もり)の必要性に言及しているのは、そのためである。