結論から述べると、本ケースではAに殺人罪が成立する。
199条の構成要件は「人を殺した者」と書かれており、「Cを殺した者」とは書かれていない。
「およそ人を殺そうとして」「人が死んだ」のだから殺人罪が成立する。
詭弁のように思われるかもしれないが、AはBを脅すために近くにおいてあった狸の置物を狙ってライフルを撃ったと考えてみよう。
弾が逸れてCが死んだのは同じとする。
人を殺そうとしてライフル銃を撃つのと、狸の置物を壊そうとしてライフル銃を撃つのとは大きな違いがある。
人を殺そうとしてライフル銃を撃つときは、「捕まったら死刑になるかもしれない」とうくらいの覚悟で引き金を引く。
一方、狸の置物を壊そうとしてライフル銃を撃つときは、「せいぜい器物損壊になるくらいだ。弁償すればたいしたことない」という程度の気持ちで、人を殺そうとしてライフル銃を撃つときとでは覚悟も精神状態もプレッシャーも大違いだ。
「人を殺そう」という重いプレッシャーに晒されながらも敢えてそれを実行し、(他人であれ)「人の死」という結果を招いてしまった。
「人を殺すなかれ」という重い規範に直面しつつ敢えてそれを破った場合と、「物を壊すなかれ」という比較的軽い規範に直面しつつ破った場合では大違いだ。
よって、本ケースでは殺人罪が成立する。
このように、犯罪を構成する要件である「構成要件」に当たるかどうかが、第一関門だ。
第二関門は「違法性」だ。
違法性を論じるに当たり「正当防衛」を例に挙げる。
刑法36条1項は、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定している。
例えば、あなたに対して包丁を持った人間が突進してきたとしよう。このままだと刺されて死んでしまうかもしれない。幸い、あなたは柔道の達人で相手を一本背負いで投げ飛ばした。投げ飛ばされる先に鋭利な石があったので、相手は石に体を打ち付けて死んでしまった。
あなたとしては、相手が死んでも構わないと思っていたし、現実に相手は死んでしまった。
このケースだとあなたの行為は、「人を殺した」という199条の殺人罪の構成要件に該当する。 つまり、第一関門は通過してしまう。
しかし、正当防衛のようなケースでは「違法性がない」ということで第二関門は通過させない。
違法性という第二関門には、他にも緊急避難とか正当業務行為がある。
刑法35条で規定された「正当業務行為」は、構成要件に該当しても違法性が阻却される。
正当業務行為の典型例は、医師の手術だ。