見えないルーティン

タスク管理の第一人者で50冊以上の本を執筆している佐々木正悟氏は著書で、私たちが日々生きていくだけで必要な時間があることを指摘した。

日々の細々としたことから睡眠時間・食事の時間・トイレに行く時間まで、人間には毎日を生きるためだけに消費する時間がある。佐々木氏はこれを「現状維持コスト」と呼ぶ。

私たちはふだん、こういった時間をどのくらい使っているか、あまり意識していません (引用:なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか? 佐々木正悟 技術評論社 2014)

現状維持コストが「見えない時間」であることを説いているのだ。

仕事でも現状維持コストは存在する。たとえば、ビジネスマンはメールの読み書き・調べ物に毎日一定の時間を費やす。マッキンゼー国際研究所(MGI)が実施した調査によれば、オフィスワーカーは1日あたり2.6時間をメールの読み書きに費やしているという。

オウケイウェイヴ総研が全国の会社員1,000名を対象に行った「社内業務に関する調査」では、一般的な会社員は1日平均1.6時間をインターネット検索等による調べ物に割いていることがわかった。

以上を単純計算すれば、ビジネスマンはメールの読み書き・調べ物の時間だけで1日4.2時間(2.6時間+1.6時間)を費やしていることになる。仕事ではこうしたルーティンタスクが現状維持コストとなるのだ。

また、割り込み仕事も見えないルーティンタスクにあたる。

前述のローラは、ワークショップの受講者にタイムログをつけさせたところ、あるパターンを発見したという。それは「何度も仕事のじゃまをされる」ことだった。その受講者の1日は、突発的なミーティングやちょっとした相談のくり返しだった。 (参考:うまくいっている人は朝食前にいったい何をしているのか ローラ・ヴァンダーカム SBクリエイティブ 2017)

割り込みは突発的に発生するものだ。しかし毎日一定時間割り込まれるのであれば、もはやルーティンタスクとも言える。

予定通り仕事が終わらない本当の理由

先程紹介した本で佐々木氏は『多くの人がカレンダーや手帳の「余白」にだまされています。人によっては「予定の書いていない日は空っぽ」と思い込んでいます』と言い、次のように説く。

すべての日は、「生きていくため、仕事をするためにしなければならないこと」でぎっしり埋まってしまっています。カレンダーは実際には、余白どころか、書き込むスペースが足りなくなるほど、用事でいっぱいなのです (引用:なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか? 同上)

たとえば、会議や面談の予定がない日はその日一日「余白」があるように思える。しかしルーティンタスクや割り込みに割く時間を考えれば、余白は実際にはかなり少なくなる。

筆者は長時間労働に悩んでいた頃、毎日仕事中に時間・行動の記録を取っていた。2013年のデータを見返すと、ルーティンタスクに費やす時間は1日あたり179分、割り込みに費やす時間は133分だった。ルーティンタスクと割り込みを合わせると1日で5.2時間となる。

仮に9時から18時まで9時間働くとすると、自由に使える時間は3.8時間(9時間–5.2時間)になる。3.8時間しかないのに9時間分の仕事の計画を立てれば、当然5.2時間(9時間–3.8時間)が溢れる。予定通り仕事は終わらないというわけだ。

佐々木氏は『自身の経験を通じて私が知った究極のポイントは、「時間はないのだ」という事実が「見える」ようになることの大切さでした』と語っている。

多くの人には実際に使える時間が限られていることが見えていない。ルーティン・割り込みといった「見えない時間」を見落とし、自分が実際に使える時間以上の予定・計画を立ててしまう。だから、予定通り仕事が終わらないのだ。