この拙稿で筆者が難じた産経の黒瀬悦成ワシントン特派員は、今や本社の副編集長兼外信部編集委員に出世した。郷土横須賀と高・大の大先輩である石井英夫元産経抄子の縁で、40年来産経一筋で来た筆者だが、こういう輩が偉くなるようではそろそろ産経に見切りを付けねばならぬかと悲壮な思いだ。
10日の産経「黒瀬悦成の米国解剖」は「下院議長選にみる共和党の混沌」の見出しで、「共和党が議長選で醜態をさらした根本原因は、昨年11月の中間選挙で同党が下院を民主党から奪還したものの、選挙戦でトランプ氏が悪目立ちして穏健な有権者が離れ、過半数をわずかに上回る議席しか確保できなかったことにある」と相変わらずのトランプ批判だ。
ところがその後で「強硬派の議員を最終的に説得して幕引きに導いたのもトランプ氏だ」、「ソーシャルメディアに『わが国のために一肌脱いでやった』と書き込み、自身の手柄を強調した。衰えが指摘されるとはいえ、現在も党内に相当程度の影響力を維持しているのは事実だろう」などと書いて、いつもの二股膏薬が顔を出す。無定見もいい加減にせよ。
その点、根っからの民主党応援団長である海野素央明大教授は「次の2年間、『MAGA対MAGA』と『MAGA対反MAGA』の2つの対立構図がある中で、共和党は党内の『統一』がかなり困難になりそうだ」(「Wedge ONLINE」)と潔い。だが、黒瀬の見立ても海野のそれもきっと外れる、と筆者は思っている。
1月5日、親しい友人にマッカーシーで決まる理由を、「Politico」「Hill」「Axios」「Newsmax」などの米メディアをwatchしていた筆者はこうLINEした。
下院議長を民主党に譲ることはあり得ない→遠からず結束する マッカーシーは下院院内総務として実績がある トランプが支持を表明した(反対派5人にマッカーシーを支持するよう12月半ばに要請していたトランプは、昨日改めて結束を求めた)反対派の中核はフリーダムコーカス(FC:デサンティスも一員だが今回はマッカーシー支持)というかつての自民党青嵐会のような強硬派で、例えばマスク・ワクチン強制の廃止なども主張している。直近の投票で20票を取った強硬派のジム・ジョーダンはこのグループとは一線を画していて、議長への意欲はなく、かつトランプとマッカーシーの支持者だ。
マッカーシーはFCの出す条件を飲みつつ、目下妥協を図っている。投票は過半数218を取る者が出るまで繰り返される。「議長は議員がなる」という決まりがないので、僕はトランプやペンスが議長をやっても良いと思う。
3回やった投票のたびに反対が増えて、民主党から歓声が上がったと報じられたが、より反民主党の政策に近づく過程なのに、米国でも民主党は愚かだね。
この辺りを本欄に寄稿しなかった理由は、本欄の速報性の問題からだ。脱稿から掲載まで40時間以上かかるため、その間に結果が出てしまい、気の抜けたビール原稿になる可能性があった。
さて、そのマッカーシーがFCに譲歩した主な項目について、11日の「Washington Free Beacon」が詳報している。
先ず不信任案動議基準を5人から1人に引き下げる件だが、それを成功させるには下院議員の過半数が必要であり、そのためには民主党と組まねばならぬが、右派強硬派がそれをすることはあり得ない。
次に、重要な下院委員会の9委員長のうち3つをFCに譲ったが、FCにはトランプとマッカーシーの強力な支持者であるジム・ジョーダンやマージョリー・テイラー・グリーンもいるし、また下院規則委員会の委員長もマッカーシー支持者のトム・コールであるなど、FCも反マッカーシーばかりではない。
法案を議場に移す前に、議員に72時間の審査時間を与える件は、ペロシ前下院議長が議員に法案を読む時間を十分に与えずに投票を強行したことに共和党議員は長年不満を抱いており、むしろこの規則改正はその不満に対処するためのものだ。
他は省くが、これら譲歩は何れも反民主党に振れる性格のものであって、黒瀬氏や海野氏が述べる希望的観測が外れる公算の方が強い。加えて、今般のバイデン文書、マスクが暴くツイッターの内幕、ハンターのラップトップを始め、共和党下院が民主党の脛の傷に塩を擦り込む材料には事欠かない。
ここ数年、ひたすらトランプ押しで来た筆者は、来年の大統領選を経てトランプの米国が戻ってくることこそ、隣国の脅威に晒される我が国の安全保障に資すると考える。黒瀬氏や海野氏の吠え面も見たい。その時の日本の布陣は菅総理、高市官房長官、萩生田自民党幹事長、それが筆者の初夢だった。