66歳のドイツ人聖職者ゲンスヴァイン大司教の本の狙いは亡くなったベネディクト16世の知られていない顔を読者に伝えるといった穏やかなものではなく、ズバリ、フランシスコ教皇批判に集中しているのだ。教理省内高官が2017年5月、自分は同性愛者だと告白して、バチカン内に広がる同性愛傾向を暴露した本(「最初の石、同性愛神父の教会の偽善への告発」)を出版した時、カトリック教会内外で大きな反響を呼んだが、ゲンスヴァイン大司教の本はカトリック教会最高指導者への批判が記述されているからその影響はさらに深刻だ。
ゲンスヴァイン大司教の本を理解するためには同大司教とフランシスコ教皇との関係を知る必要がある。同大司教はベネディクト16世の在位期間、その公設秘書として常に同16世の傍で従事してきた。その同16世が2013年に生前退位し、南米出身のフランシスコ教皇が後継の教皇に選出された後、数年間はフランシスコ教皇の秘書の仕事を継続していたが、2020年、フランシスコ教皇は自身の秘書を選び、ゲンスヴァイン大司教を解任する形で教皇庁教皇公邸管理部室長の立場を停職させた。大司教の仕事を名誉教皇となったベネディクト16世のお世話係の地位(私設秘書)に限定したわけだ。フランシスコ教皇の人事について、同大司教は本の中で「大きなショックを受けた」と正直に告白している。
本の中ではまた、フランシスコ教皇がラテン語のミサなどを完全に撤回した時、ベネディクト16世はショックを受けたという。また、フランシスコ教皇のジェンダ―政策に対し、ベネディクト16世が「社会のジェンダー政策は間違っていると、もっと明確に批判すべきだ」という趣旨の書簡をフランシスコ教皇に送ったが、フランシスコ教皇からは答えがなかったという。同大司教は、ベネディクト16世とフランシスコ教皇の関係がメディアで報じられるような兄弟関係ではなく、最初から厳しいものがあったことを示唆、その責任の多くをフランシスコ教皇に押しやっている、といった具合だ。
バチカン関係者によると、フランシスコ教皇はゲンスヴァイン大司教の本の内容を不快に感じているという。同大司教はベネディクト16世以上に保守的な聖職者と言われている。バチカン教皇庁内では「大司教の本の出版は教会の統一を破壊する恐れがある」として、本の出版を阻止すべきだという強硬発言すら出てきている。
オーストリア日刊紙スタンダートのドミニク・ストラウブ記者は8日付のローマ発の記事の中で、「フランシスコ教皇とは異なり、ゲンスヴァイン大司教はローマの上流社会を愛し、テニスをし、バチカンのジョージ・クルーニーとしての評判を楽しんできた」と記し、両者は生活スタイルから全く違っているという。