なぜライブ配信アプリは広告を出せないのか?

SHOWROOM個別の問題とライブ配信自体の問題まで様々な指摘をしたが、ライブ配信アプリのビジネスモデルで最大の弱点は広告が出せない事だ。メディアビジネスで広告が出せない事は致命的と言ってもいい。そして実際にライブ配信アプリでは全く広告が表示されない。

同じ映像メディアであるYoutubeとテレビはどちらも広告収入が柱だ。テレビなら定期的にCMが流れる。Youtubeならば動画が流れる前や途中で広告が流れて、バナー広告(四角い枠の広告)も表示されている。

SHOWROOMで同じように広告を流したらどうなるか。技術的には可能でも誰もクリックしない。なぜならこれからライブ配信、つまり「生放送」を見ようとしている・あるいは見ている人が広告をクリックするわけがないからだ。Youtubeであれば広告をクリックした後に元の画面に戻れば動画を見られるが、ライブ配信ならば生放送を見逃してしまう。

同じ動画コンテンツでも「ストック型」=いつでも見られる形式のYoutubeと、「フロー型」=生でしか見られないライブ配信では全く性質が異なる。

広告を入れたくても入れられず、無理に入れたところでクリック率は異常に低くなるだけで収益に寄与しない。テレビの生放送でCMは流れているが、テレビでは多数の視聴者数が見ることから「一方的に見せるだけ」の広告でも成り立つ。ウェブ広告は通常クリックしてリンク先を見て貰う必要がある。見せるだけの広告はインプレッション広告といって存在はしているが単価が低い。

単価が低くても流せば良いかというと、それでも表示は難しい。生放送の配信を邪魔するからだ。テレビであれば一つの番組を多数の視聴者がみるため、CMの間は番組の進行を止める形で広告表示とタイミングの調整が可能だが、ライブ配信は多数のライバーが自身の配信ルームでテレビより何ケタも少ないリスナーを相手にしている。テレビで言えば数千のチャンネルにCM(広告)を一斉に流すタイミングを調整できるか?と考えれば現実的に不可能だ。

あるいは個々のルームで配信が30分経過するごとに広告を流す、といったやり方ならライバーが自ら調整することは不可能ではないだろう。ただ、それでも実際に広告が流れるアプリを少なくとも筆者は見たことが無い。邪魔なだけではなく、得られる収益に対してライバー・リスナーとも他のアプリに逃げてしまうなど弊害があまりに大きいことは容易に予想がつくからだ。

ライブ配信に堂々と広告が流れるとしたら、それはYoutubeのように圧倒的なシェアを確保してテレビと同じ位ユーザーを獲得したライブ配信アプリが生まれた時だろう。Youtubeの広告も当初は極めて評判が悪かったが、単純に他にライバルがいなかったから実現できた、という説明になる。

広告が流せない、それだけでもメディアとして極めて不利なビジネスモデルだが、もう一つの不利な仕組みもSHOWROOM固有の問題ではなくライブ配信アプリ自体の問題となる。それが動画コンテンツにおける「ストック」と「フロー」の違いだ。これもまたYoutubeと比較すれば容易にわかる。

(次回につづく)

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。

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