仮に当該保険が停止されると、日本にとってはどのような影響があるのでしょうか。

直接的にはロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」からのLNGの輸入などに影響が及ぶでしょう。その場合、いくら石油・天然ガスを確保しても日本には届かないことになり、エネルギー・資源のひっ迫が懸念され、国内経済・社会活動に対する負の影響は大きいでしょう。そのため、「船舶戦争保険の停止」はどうしても回避したい事態です。

「船舶戦争保険の揺らぎ」から読み取るべき深刻なリスク

「船舶戦争保険」の問題は日本にとって、第一義的にはLNG輸入を通じたエネルギー問題です。確かに“平時”においてはこれも大きな問題です。

しかしより深刻なのは、シーレーンに存在するリスク(:被害の大きさ×発生確率)の発生確率が高まっていることです。戦場は欧州という日本から遠く離れた地域ですが、侵攻国ロシアは日本の隣国です。そのため極東に位置する日本に対しても経済的な悪影響が直接的に及んでおります。

日本を取り巻く安全保障環境は確実に激化していると見ることも可能でしょう。今回の船舶戦争保険に関する変化は、そのような日本人の目に入らない「海洋国家におけるシーレーンのリスク」の輪郭を浮き彫りにするシグナルです。

普段そのリスクは、まるで盲点のように日本人の意識にのってこないのですが、この保険問題によって姿を現し顕在化しました。しかしマスメディアの反応をみると未だに見えていないように感じます。

次にその「シーレーン封鎖」リスクを想像します。

シーレーンの重要性を認識できない日本

今後仮に、中朝露が東アジアを舞台に、例えば台湾や米国と事実上の“戦争”状態となった場合、日本が戦闘に巻き込まれなくともその被害は甚大です。「南シナ海」「東シナ海」「日本海」や「北極海航路」が “封鎖”される可能性が高いからです。中国軍は、機雷戦にも力を入れているらしいことに、日本では余り注意が払われておりません。

逆に中国にとっても南シナ海と東シナ海は物流の主要な出入口です。そのため中国が設定しているとされる“第一列島線”は、経済の死命を制するエリアを掌握するための防衛線となります。しかし、南シナ海を包むように米国側がマラッカ海峡やロンボク海峡他を封鎖し、東シナ海側をバシー海峡や日本列島(沖縄・対馬海峡)で封鎖してしまえば、中国を閉じ込める海上封鎖が完成します。そこから逆算すれば恐ろしい企図が浮かび上がります。

中国は南沙諸島を一方的に軍事基地化し、九段線や第一列島線、第二列島線を設定し、インド洋や南太平洋で軍事展開できる布石を打っております。その活動は広範囲にわたり一見関連がないようにも見えますが、シーレーンに関する覇権の奪い合いという観点を持つと、一連の動きが相互に深い関係のある戦略的な準備に見えてまいります。

大陸国家である中国やロシアには陸路での物流があるので“即死”はしませんが、物流の99.5%を海上輸送に依存する海洋国家日本にとっては、海上輸送は文字通り生命線です。

仮定の話として、中国に先手を打たれ、南シナ海、東シナ海およびフィリピン海を封鎖され、日本の海上輸送路が太平洋航路一本となった場合、航路が長大になり、コストも物流日時も増大し、必要船腹も増大するでしょう。とても長期持久戦には耐えられず、食料およびエネルギーだけを考慮しても日本が先に“屈服”せざるを得ない事態も想定されます。