閾値走はマラソンなどの長距離走ランナーが心肺機能を高めることに大きな効果があるトレーニング方法です。他の方法と異なるポイントは、メニューを作る目安として、ある一定範囲の心拍数で走ることが大きな要素になることです。閾値走の取り入れ方を実例を示しながら解説します。
閾値走とは何か
閾値走(いきちそう)は耳慣れない言葉かもしれません。英語の「lactate threshold」からの訳語ですので、その頭文字からLT走と略すこともありますし、より正確な意味を求める人には乳酸性閾値走とも呼ばれることもあります。
運動の強度を上げると血液中の乳酸濃度が増加していきますが、その増加ペースが急激に上がる一定のラインがあります。いわゆる「乳酸が溜まる」状態になる直前です。閾値走とはその少し手前の段階で走るトレーニング方法のことです。
閾値走の目安となるペースの感覚
マラソンを走る人にとって、閾値走のペースとはマラソンのペースよりは速く、5キロ走のペースよりはやや遅くなります。ランニング理論の大家で米国オリンピックチームのコーチでもあったジャック・ダニエル氏は閾値走とは「50分~60分を走ることができる最速のペース」と表現しました。
閾値走のペースをさらに感覚的に表現するならば、ジョグのようにニコニコと会話できるペースほど遅くはなく、ダッシュのように会話ができないほど速くもない。話をしようと思えばできるけど、かなり苦しいくらいのペースだと言えるでしょう。
閾値走の目安となる心拍数の求め方
閾値走のペースを感覚ではなく数値で把握するには心拍数が目安になります。前述のジャック・ダニエル氏によれば、閾値走とは最大心拍数の82~88%の範囲で走るペースになります。この最大心拍数との比率を他のトレーニング方法と比較すると、ゆっくりとしたジョグが60~70%、限界まで追い込むインターバル走が95~100%です。
さらにもう少し詳しく、最大心拍数と安静時心拍数を用いて、閾値走ペースの心拍数を求める公式が次のものです。(最大心拍数 - 安静時心拍数) × 0.75+安静時の心拍数
最大心拍数の予測値
上に出てきた最大心拍数は有酸素運動の負荷を測る上でとても便利な指標なのですが、その正確な値を知ることは非常に困難です。従って、便宜的に年齢を使って予測値を出す方法が一般的です。あくまで予測値であって、個人ごとの正確な数値ではありませんが、一定の目安にはなります。
もっともよく使われるのが、最大心拍数=220 - 年齢という公式。少しだけ複雑にしたものに、最大心拍数=208‐0.7×年齢という公式もあります。
自分の年齢を当てはめて計算してみると、微妙に数値が違うことが分かります。
閾値走ペースをマラソンの目標タイムから逆算して設定する方法
どれくらいのタイムでゴールをしたいのか、目標に応じて閾値走のペースを設定する方法です。例えば、次のマラソンレースの目標タイムが4時間だとしましょう。42.195キロを4時間以内で完走するには、1キロを5分40秒以下のペースで走らなくてはいけません。そのペースで5キロを走ると約28分20秒になります。
それぐらいのレベルのランナーなら、5キロ走は25分を切れると仮定します。つまり1キロ5分00秒ペースです。そうなると、閾値走ペースの設定はマラソンペース(1キロ5分40秒)と5キロ走ペース(1キロ5分00秒)に間になります。
閾値走ペースを測定する他の方法
上で紹介した閾値走のペースはあくまで目安に過ぎません。実際にはランニングのトレーニングをよく積んだ人は閾値走のペースも速くなりますし、それがトレーニングの目的でもあります。厳密な閾値走ペースに数値を測定できるランニング専門施設もありますが、一般のランナーはそこまでこだわる必要はないかもしれません。
最近のランニングウォッチには心拍数計測機能がついているうえ、予測値の閾値走ペースを表示してくれるものもありますので、それらを上手く利用してもランニングの計画に利用すると良いでしょう。
閾値走で目指すべき目的
閾値走は上に挙げたいくつかの方法で設定したペースをある一定以上の距離、または時間を走り続けるトレーニング方法です。その目的とは血液中の乳酸を除去する能力を高めることです。血液中の乳酸濃度が急増するポイントの手前が主観的にも疲労度が高まるタイミングでもあります。そうなる直前のペースを維持して走り続けると、乳酸除去能力が高まり、より長く強度の高い運動を続けるための心肺機能を高める効果があるのです。
尚、乳酸はかつては疲労の原因になる物質だと誤解されていましたが、現在ではエネルギー源になることが分かっています。
閾値走を行うべきランナー
閾値走はかなり負荷が大きいトレーニングです。この記事のタイトルにあるように、マラソンを完走するためではなく、マラソンのタイムアップを目標とするランナー向けであるとも言えるでしょう。次こそはサブ4、あるいはサブ3を狙ってやろうと心に秘めているランナーには閾値走はおススメです。
それほどタイムにこだわりがなく、それより楽しく走りたいというランナーには、閾値走は不要のトレーニングです。なぜなら閾値走とはマラソンペースより速く走るもの。完走するだけなら練習しておく必要がないレベルの負荷だからです。
閾値走がダイエットには向かないわけ
ダイエットが目的でランニングをしている人にも閾値走は向いていません。閾値走のペースとは、身体が有酸素エネルギーを多く使う段階から無酸素エネルギーを多く使う段階へ移る運動強度のことでもあるからです。つまり、脂肪燃焼効率が高い有酸素運動ではなく、限りなく無酸素運動に近くなります。
前述しましたように、閾値走の目安は最大心拍数の82~88%です。一方で、脂肪燃焼効果が最も高い心拍数ゾーンは大体60~75%と言われています。ランニングをするなら、ゆっくりしたジョグ程度のスピードで回数と頻度を多くする方がダイエットにはむしろ効果的なのです。