「高齢者の負担増加は結局子どもに跳ね返るだけ」という勘違い。

医療費が一部2割負担へと変更されたように多少の変更・調整はなされているが、これはほとんど誤差の範囲だ。

2割負担による現役世代の負担軽減は年間1880億円と見込まれている(後期高齢者医療における窓口負担割合の見直し 厚生労働省)。

制度変更時には「1人あたり、なおかつ1か月あたりに直すと現役世代の負担軽減効果は数百円程度とごくわずかだから意味が無い」といった指摘が、負担増加に反対する立場からなされていた。これは当然、現役世代の負担をより軽くしようということではなく、この程度しか減らないなら変える意味が無い、現状のままで良いという指摘だが、世代間格差による負担をあまりに甘く見ていると言わざるを得ない。

現役世代の保険料負担は重すぎるから給付を減らして負担も減らすべき、という批判に対しては「医療費の増加や年金カットは、結局子ども(現役世代)が支えるだけで意味が無い」という反論が定番のようだ。実態としてすでに保険料の負担が重いと指摘した通りだが、年金・医療・介護の給付が今後カットされても、その負担をダイレクトに子どもが背負うことはまず無い。

これは年金が1万円減ったからと1万円仕送りをしてくれと子どもに頼む親がどれくらいいるか、と考えれば簡単にわかる。まずは本人の収入・資産・節約等の形で負担がなされ、その分だけ現役世代の負担は減る。

高齢者の負担増加は「高齢者イジメ」と勘違いされることも多いが、現役世代は将来の給付、年金・医療・介護が大幅にカットされることは確実だ。したがって現在の高齢者と将来の高齢者、つまり高齢者と現役世代の平等性を考えれば、現状の負担と給付はあまりにアンバランスと言わざるを得ない。

繰り返すが高齢者の負担を一方的に増やせということではなく、高齢者も現役世代も平等に扱われるべきであり、その結果高齢者の負担が増えることは「平等の観点」から考えれば仕方がない、少子高齢化の負担は現役世代と高齢者の双方で負担すべき性質のものである、ということだ。

社会保険料への興味の薄さ

現役世代と高齢者の負担と給付について、論じるべき事は山のようにあるが、冒頭で書いた通り税金と比較してそもそも社会保険料が論じられることは極端に少ない。

かなり簡易的な確認方法になるが、あらゆる分野のメディアから記事が配信・掲載されているYahoo!ニュースではどうか。Yahoo!ニュース内を検索すると、各ワードでヒットした記事の本数は以下の通りだ。

・社会保険料 1040件 ・消費税 4289件 ・法人税 1092件 ・所得税 2090件 ・年金 6209件 (※202212/27 執筆時点)

「社会保険料」の1040本は3つの税金のいずれよりも少なく、合計数の7471本と比べて極めて少ないことは一目瞭然となる。一方で「年金」は6209件と単体では圧倒的に多い。払うより貰う方に興味があることは当たり前……と言えるかは分からないが、社会保険料への興味の薄さがメディアの報じ方や記事の本数へとダイレクトに反映されていることは間違いない。そしてそれが回りまわって現役世代の負担増加にもつながっている。

社会保険料は増やすべきか減らすべきか、誰がどう負担すべきか、社会保障費の増加はどうするべきか……筆者の個人的な感想や見解は別にしても、いずれも税金と同等以上に重要で影響の大きい話だ。まずは税収より社会保険料が多いことはもっと知られるべきであり、もっと論じられるべきである、と伝えておきたい。

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月28日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。