住宅ローンは金額をコントロール出来ない。
住宅購入も変動金利も投資である、という視点で考えると、最も重要かつ深刻なリスクは「金額をコントロールできない」ことだと分かる。
株式投資ならいくら投資をするか金額を自由に決められる。途中でヤバいと思ったらいつでもやめられる。しかし住宅ではそれが出来ない。一度ローンを組めば売却や買い替えをしない限り、家に投じた金額を変更することも、放り出すことも出来ない。
これから購入する人は予算を変更出来るが、実際は「この場所にこのくらいの広さの家を買いたい」と決めれば金額はある程度決まってしまう。不動産が市場で売買されている以上は相場を無視出来ない。
予算を大幅に減らそうとすれば購入プランはゼロから考え直すハメになる。筆者の相談経験からさらに言ってしまうと、収入と仕事とプライベートのバランスから決めた住宅購入のプランは、ライフプランとも密接にかかわることからおいそれと変更もできない。
資産運用の視点で住宅を考えるとどうなるか?資産運用では「配分」でリターンのほとんどが決まるという考え方がある。これをアセットアロケーション・資産配分と呼ぶ。資産運用のリターンを決める要素は、選択・タイミング・配分と三つあるが、株であればどの会社の株を買うか、いつ売買をするかよりも、資産に占める株の割合がリターンをほぼ決めてしまう。
株の保有割合が資産全体の1%で残り99%が貯金ならば、どんなに株価が乱高下しても保有資産に与える影響はゼロに近いが、資産が100%株ならばわずかな株価の上下で資産総額が乱高下するからだ。
そしてアセットアロケーションで、リターンはもちろんリスクまで決まる。資産運用はアセットアロケーションで決まる、と言っても過言ではない。
この考え方を住宅購入と住宅ローンに当てはめるとどうなるか。
住宅購入については売却しない限り途中で逃げられず、一部売却といった細かなリスク調整が出来ず、金額が大きく保有資産の大半が不動産になってしまう。大家と入居者が同一人物で空室リスクが無いことを除けば、住宅購入のリスクは不動産投資のリスクそのものであると分かる。
変動金利のローンも、家を売却しない限り途中で逃げられない、半分に減らすといった細かなリスク調整がやりにくい、借り換え出来ないリスクがある、固定金利に借り換えると金利が上がる、金額が大きく金利上昇時の影響が極端に大きい、とハイリスクハイリターンであることが分かる。
つまりリスクコントロールの要であるアセットアロケーションが、住宅や変動金利ではほぼ何もできない。
変動金利だけじゃなくて住宅購入のリスクまで含んでるじゃないか、と思ったかもしれないが、二つのリスクが重なると、リスクがより大きくなると説明した通りだ。
変動金利は「損得」で考えても答えは出ない。借り換えや金利の選択で迷うことは何らおかしくないが、大抵のケースで抜けている視点が、繰り返し説明した「リスク」だ。
変動金利が低い理由はリスクの裏返し、リスクとリターンはセットという視点からスタートすれば、変動金利に関する悩みは資産運用で発生する悩みと同じだとわかる。
株式投資は将来を予想して当たるか外れるかにお金を賭けるゲームではなく、将来がどうなるか「分からない事」を前提に、可能な範囲でリスクをとってリターンを追及する行為である。
>今後変動金利はどうなるのか? 固定金利に借り換えすべきなのか? するとしたらいつがいいのか?
冒頭に書いたこれらの疑問も、そして固定金利の推移も、将来どうなるかは分からず、「分からないこと」を前提に判断する必要がある。
答えがわからない状態で判断をするにはリスクを見ればいい。株式投資で損切り=値下がりした銘柄の売却を行えば、利益を得る可能性を失うが、同時にそれ以上損をする可能性も消える。つまり損失が確定してリスクが消える。
変動金利が今後、いつどれくらい上がるかは分からなくても、固定金利に借り換えた際の支払い額は金利から簡単に計算できる(もちろん借り換えが出来ればの話)。
おそらく執筆時点の固定金利で計算しても、こんなに支払い額が増えたらたまったもんじゃないという人がほとんどだと思うが、それは基準を置く場所が間違っている。株で大儲けすることを前提にライフプランを考える人がいないように、変動金利による少ない返済額はあくまでリスクをとった恩恵、リスクの裏返しであり、それが35年先まで必ず続く前提の方に無理がある。
変動金利や借り換えについて、何か画期的な知識やノウハウを期待してこの記事を読んだ人には申し訳ないが、そういうものは無いです、なぜならそれは「絶対に儲かる投資術」と同じだから、という説明になる。
そして、もしこの記事が変動金利の否定と捉えられたなら、それは筆者の文章力に問題があっただけという事も書き添えておく。変動金利と固定金利はハイリスク・ハイリターンとローリスク・ローリターンの関係にある。貯金と株に優劣がなく性質が違うだけ、ただリスクとリターンが異なるだけ、という関係と同じだ。
変動金利に関する判断材料は筆者なりにすべて提示したつもりだ。最後の判断はお任せします、と伝えてこの記事を終えたい。
*本稿では現金払いで買えるほど貯金が極端に多いケースなど、特殊な事例は除外した。一つとして同じ不動産が無いように、個々のライフプランは全てケースバイケースであることも書き添えておきたい。
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中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月23日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。