三つのリスクは相互につながっている。

変動金利には以下のような三つのリスクがあると説明したが、それぞれが独立したリスクではなく相互に強く影響している。

・金利上昇リスク ・借り換えが出来ないリスク ・変動金利が上がる時は固定金利はとっくの昔に上がってるリスク、

「金利が上がったら固定金利に借り換えれば良い」

これは変動金利で借りている人の多くが考えている事だろう。しかし、金利上昇リスクに借り換えで対応することは二つの点で問題がある。

一つは借り換えが出来ない場合があること、もう一つは借り換えのタイミングが極めて難しいこと……と、残り二つのリスクが金利変動リスクと直接的にかかわる。

まずは借り換えが出来ないリスク、これは新規にローンを組めないケースと基本的には同じだ。

病気で団信の審査が通らない、収入が少なくて借りられない=借り換えならばローン残高に対して収入が下がっている、クレジットカードや奨学金等の延滞で信用情報に傷がついている、といったケースだ。

借り換えであっても借り換え先の金融機関期間にとっては新しい貸し出しで、他行で借りていたことは全く関係ない。住宅購入時に健康で収入に問題が無くても、借り換えの際に問題があれば断られることは当然ある。

信用情報に傷がつくケースはうっかりミス等も有り得る。必ず借り換えが出来る前提でいることは間違いだ。

借り換えのタイミングは株の売買と同じ。

借り換えのタイミングも非常に難しい。固定金利が先に上がる性質が加わることでなおさら難しくなる。

例えば0.3%の変動金利でローンを組んだ人が、「今の固定金利は低い銀行でも1.3%くらいか。じゃあそれを目安に1.3%まで上がったら固定金利に借り換えよう」と考えるとどうなるか。

変動金利が1.3%に上がる頃は、固定金利はそれより1%以上高くなっていてもおかしくない。筆者は借り換え戦略を考えている人に、固定金利へと切り替えるタイミングの難しさについて、以下のように説明する。

「株は買う時より売る時の方が難しいと言われているように、借り換えも同じです。損をしたらいつか買値に戻るまで待とうと思うものだし、大儲けした場合ももっと値上がりするかもしれないと思ってしまう。特に固定金利への借り換えは損を確定させる行為なので非常に難しいんです。支払い額は確実に増えますから」

例で挙げたように、変動金利が1.3%に上がったとしてもそれで金利が止まるわけではない。その後さらに上がるかもしれないし下がるかもしれない。損をした株の売却を「損切り」と呼び、損切りが出来ず(いつか値上がりすると思って)ずっと持ち続けることを「塩漬け」と呼ぶ。

こんな言葉があるくらい損切りは難しく、塩漬けも珍しくない。株の損切りを変動金利のローンに置き換えると固定金利への借り換えとなる。なぜなら金利変動リスクがその時点で無くなり、なおかつ金利が上昇=返済額の増加を意味するからだ。

借り換えのストレスは極めて大きい

現在、変動金利は全く上がっておらず、少なくとも短期的に上がる気配もほぼゼロといって良い。しかし0.25%から0.5%へと日銀が長期金利の上昇をわずかに容認をしただけで「実質利上げ」と大騒ぎになり、日銀は利上げではないと火消しに躍起になっている。

住宅ローンの比較サービスを提供する「モゲチェック」は借り換えを検討するユーザーのアクセスが殺到し、サーバーが一時的にダウンしたと報じられている。変動金利でローンを組んでいる人の中にはパニックに陥っている人もいるかもしれない。

可能性が報じられただけでここまで騒ぎになることを考えると、もし実際に変動金利が上がったらどれだけの大騒動になるか? それがほんのわずかな上昇であっても、冷静に対応できる人ばかりとは到底思えない。現に「長期金利が上がっても変動金利に影響はないと聞いてホッとした」というSNSの書き込みを筆者は多数見かけた。

筆者は借り換え戦略を考えている相談者に「借り換えのタイミングは変動金利の上昇ではなく固定金利の上昇を見るべき、なぜなら『逃げ先』である固定金利が先に上がるから。変動金利が上昇してから借り換えるのは手遅れかもしれない」と説明している。予防的に早めの借り換えをするべきという話だ。

とはいえ、これは理屈の上で正しくても実際にやれる人はごく少数だろう。現在の状況を見ても分かるように、固定金利だけが先に上がって変動金利に変化はない。金利上昇の懸念は杞憂に終わる可能性も高く、慌てて借り換えをすれば大損する可能性もある。

こんな状況で確実に数百万円も支払いが増加する借り換えの意思決定をしなくてはいけない、と考えればその難しさとストレスは極めて大きい。それがどれくらい大きいかは現在のプチパニックを見れば分かってもらえるだろう。

変動金利は資産運用である。住宅購入も資産運用である。

筆者はFPとして資産運用のアドバイスも行っているが、変動金利は借り手が金利変動リスクを負って、その対価として支払い額を減らす、つまりリスクを取ってリターンを得る仕組みで、これは資産運用の側面が非常に強い。金利が上がらなければ固定と変動では支払い総額が数百万円も違うケースは珍しくない。それ相応のリスクがあるのは当然、という説明になる。

冒頭で「変動金利と固定金利の違いは損得の違いではなくリスクの違い」と書いた。何を当たり前の事を偉そうに、と思った人もいるかもしれない。ただ、変動金利に資産運用的な側面があり、そのリスクとリスクを扱う難しさを考えれば、この言葉に込めた意味も理解してもらえるのではないかと思う。

変動金利のリスクに今になって慌てている人は、こういったリスクを認識しないままローンを組んでいた事になる。銀行も不動産会社もそんな話はしてくれなかったと腹を立てるかも知れないが、そしてそれは当然の苛立ちではあるものの、残念ながら投資と同じく住宅購入もローンの選択も自己責任だ。

筆者は住宅購入を検討している人に対して、家を買う事は不動産投資である、なぜなら不動産を取得してそこからメリットを得ることは不動産投資と同じだから、そして投資には必ずリスクがある、と説明している。

マイホームの購入と不動産投資の違いは自分が住むか人に貸すかだけだ。低金利や減税で自宅として買うメリットは多数あるが本質は全く同じと言っていい。

変動金利を検討している相談者には、不動産投資のリスクに金利変動リスクまで背負うのは「もしかしたらやり過ぎかもしれないですね」と伝えることもある。