京都府八幡市の「八幡人権フェスタ2022」で『本当は怖かった江戸時代』というテーマで講演しました。主たるテーマは日本を身分差別や男女差別の徹底で最悪の人権が守られない国にした江戸時代について語り、そののちに、おまけとして現代における人権を国際的な視野から論じました。

この記事はそのレジメです。

1865年(慶応元年)または1866年(慶応2年)にフェリーチェ・ベアトが愛宕山より撮影した江戸のパノラマ。Wikipediaより

江戸時代を「地上の楽園」のようにいうのはおかしい~封建思想が徹底され人権がもっとも無視された時代だった

「江戸に学べ」という物言いが流行している。環境重視だった、平和だった、地方分権だったなど色々いうが、はたして江戸時代の人は本当に幸福だったのだろうか。明治維新や文明開化のために日本は悪くなったというのだろうか。

黒船の来航をきっかけにして江戸幕府が終わったのちの、明治国家による近代化は、世界史上でもまれに見る成功した改革だと国際的にも評価されて来た。世界トップクラスの豊かな国でいまあることも、そこに至る一世紀余りの歴史がおおむね正しかったことを示している。

ところが、江戸時代礼賛論者はそれ以前の封建時代を誉めて学べというのである。この腑に落ちない賛辞は、どこかで聞いた呼びかけに似ていないだろうか。「北朝鮮は地上の楽園」というのである。

そもそも、江戸時代と北朝鮮の現在はとても似ている。世襲の権力による支配、対外的に閉鎖された鎖国体制、それに伴うモノの徹底した再利用、密告による体制維持など同じだ。江戸やピョンヤンといった首都の市民を優遇することで、人々の不満が体制を脅かすのを避ける仕組みもそっくりである。脱北者と同じように、江戸時代には農民の逃散があって、各藩の最大の悩みだった。

もちろん、北朝鮮も悪く言われすぎているところもある。体制の基本は安定し、治安がそんな悪いわけでもない。教育もいろんな意味で片寄っているが、それなりに普及している。いろいろ騒がしいことはいっているが、北朝鮮は韓国と違って海外に派兵しているわけでない。

しかし、決定的にどちらもおかしいのは、自由が欠如していること、「世界の進歩とともに歩み、その成果を国民が受けられるようになっていない」ということなのではないか。

江戸時代を誉める人も、多くの事実に目をつむったり、一面的な見方をしている。

また、安土桃山時代が、貧農出身の豊臣秀吉が天下を取れるような自由な社会であり、宣教師たちが驚くほど女性が輝いていた時代だったのを、朱子学が李氏朝鮮から導入することで封建化した時代だったことも強要されるべきだ。