長期金利<名目成長率
というドーマー条件が満たされていないと、金利上昇で財政赤字が増え、それによって金利が上がって、赤字が発散するおそれがあるからだ。日銀が長期金利を抑えても、名目成長率が落ちると、この不等式が満たされなくなる。
OECDの統計では、2009年から世界金融危機でOECDも日本も大幅な財政赤字になり、ドーマー条件を満たさなかった。2020年以降のコロナによる財政赤字はそれより小さいが、日本ではドーマー条件は満たされていない。

日本総研
しかしドーマー条件を満たしていなくても、財政赤字が発散するとは限らない。事実、2010年代後半にはドーマー条件は満たされるようになった。PB黒字化というのは、それほど意味のある条件ではない。
6.金利目標で財政赤字をコントロールするマクロ経済的にはPB黒字化は必要ないので、防衛費の増強が必要なら予算を増やすのは当然だが、名目政府債務が大きくなると、金利上昇のショックが大きくなる。今は日銀がYCCでゼロ金利に抑えているが、世界的に金利が上がってくると、日本だけゼロ金利を続けることはむずかしい。
名目政府債務を減らす方法として、ピケティなどが提案しているのは、中央銀行が国債を「永久に償還を求めない」と宣言する徳政令を出すことだ。しかし日銀総裁がそんなことを口走った瞬間に、世界の投資家が「日本政府は借金を踏み倒す」と思って国債も円も暴落し、激しいインフレが起こるだろう。
ただWoodford-Xieも提案するように、理論的には中央銀行が金利目標を固定して国債を無制限に買い入れ、インフレ目標のオーバーシュートを容認すれば、財政赤字をコントロールできる。これはまさに今の日銀のYCCである。
7.永久国債で借り替える防衛費については永久債で調達し、日銀が買い取ってマネタイズすることも考えられる。名前は防衛国債である必要はなく、自民党税調のいうような建設国債でもいい。金利は国庫納付金になるので、無利子と同じである。無利子の永久債は日銀券と同じだから、国債残高が減る。
今でも日銀の保有国債は実質的に永久債なので、大した意味はないが、防衛費を調達して国防族を納得させ、国債残高を減らして岸田首相の責任感もそれなりに満たせるのではないか。
国債を日銀券に置き換えても統合政府の債務は同じだが、これによってマネタリーベースが増え、財政インフレになるおそれがあるので、借り換えは徐々にやる必要がある。ただ日本政府は過剰に信用されているので心配ない、というのがターナーやシムズの意見である。
日本の財政はいまだに均衡財政が原則で、国債には毎年、国会の議決が必要だ。形骸化した60年償還ルールや日銀引き受けの禁止など、時代遅れの国債ルールを見直してはどうだろうか。