スターリンクがウクライナへ提供された背景には、開戦直後の時期にフェドロフ氏がマスク氏へTwitterを通じて“直談判”し、そのわずか10時間後に提供が成立した、という逸話があります。

現在、スターリンクはウクライナの情報戦を支える貴重な通信回線としてフル活用されています。スターリンクを通じて宇宙空間から送られる情報は、偵察や戦闘部隊間の情報共有、そして砲撃や航空攻撃の際に重要となる攻撃目標の位置特定などに多大な貢献をしており、ロシア軍部隊が各地で撃破される要因の一つとなっています。

ロシア軍にとってまさに“目の上のタンコブ”であるスターリンクですが、地上の通信設備とは異なり、宇宙空間に存在するスターリンクは、ロシア軍にとって手出しできない存在です。地上のインフラ目標を躍起になって破壊しているロシア軍ですが、スターリンクからの情報がウクライナへ提供され続ける限り、情報戦においてウクライナが優位に立つ状況は変わらないでしょう。

ロシア軍にとって捕捉不可能な脅威であるスターリンクと並び、“見えない武器”として活用されているのが「暗号通貨(仮想通貨)」です。

暗号通貨によるウクライナへの寄付の呼びかけは、ロシア軍による侵攻から3日後の2月27日、フェドロフ氏が主導する形で開始されました。3月14日には、世界中から暗号通貨による戦費調達を目的としたファンド「Aid for Ukraine」が開設されました。

Aid for Ukraineは、ビットコインやイーサリアム等、10種類の暗号通貨による寄付が可能です。暗号通貨が持つ特徴の一つは「匿名性の高さ」です。

この匿名性の高さのおかげで、米国や欧州、日本といった西側陣営の国はもちろん、ロシア国内やベラルーシからもウクライナへの支援金を送ることが可能となっています。

金融機関を通じて送金するのとは違って「足が付く」心配がないため、ロシア国内のウクライナ支持者からもリソースを集められます。

この斬新な手段で調達された暗号通貨はこれまで、防弾ベストや医療キット、食料やドローン等の調達にあてられているようです。

フェドロフ氏が参加を呼びかけるIT軍は、サイバー攻撃の専門家であるサイバーセキュリティの専門知識を持った人材の他にも、Web開発者やデザイナー、Webマーケター、コピーライターといった、IT関連の幅広い分野で応募者を募っています。

この呼びかけに応じ、ウクライナ国内のみならず世界中から集まった“IT義勇兵”は21万5千人にのぼり、正規軍の陸軍や空軍に並ぶ戦力として日夜、ロシア軍に対する非対称戦を展開しています(従来の戦争においても、戦争の当事国以外から参加する“義勇兵”の存在は多く見られましたが、これまでの戦争とは違い、軍隊の所属経験や戦闘経験がない民間人が“IT義勇兵”として参戦しているのも今回の戦争の特徴と言えるでしょう)。