あれから10年が経って、今回のCOP15で生物多様性オフセットの議論が出てきたようです。カーボンオフセットですら国連からグリーンウォッシングが指摘されているのに、さらに複雑極まりない生物多様性オフセットについて全世界共通の制度設計などできるはずがありません。

百歩譲って制度ができたとして、ガイドを示すくらいならよいのですが、もしも生物多様性オフセットが企業に対する義務や半強制のような扱いとなった場合には、SDGsと同じ歴史を辿る可能性が高いと考えます。

2010年のCOP10以降、国連をはじめ政府やコンサル、金融機関がこぞって「生物多様性の認知度向上」「生物多様性の主流化」「生物多様性の民間参画」「原材料調達の生物多様性評価」などといってやたらと企業の参加を増やそうとしました。生物多様性オフセットを普及させる場合も同じように言い出すはずです。

そもそも製造業であってもサービス業であっても、自然保護の専門家など社内にいません。そこでコンサルの出番です。企業に教え込む市場が生まれます。内容が難しいほど、成果が上がらないほど、コンサルはビジネスになります。

「生物多様性はビジネスチャンスです」「業種や規模を問わず、すべての企業が生物多様性に損失を与え、恩恵を受けています」「生物多様性オフセットはビジネスの絶対条件です」「サプライチェーンから除外されます」などといって企業を煽ります。

ひと通り勉強したら、次は実践編です。生物多様性オフセットとは、本質的には自社の事業活動によって失われた生態系と同じ質・量の生態系を復元することが目的のはずですが、そんな評価はできません。

そこで、これまで自社がCSR活動やボランティア活動として実施してきた植林やエコツアー、川や海の清掃など様々な活動を合わせてオフセットの分子に使おう、というアイディアが生まれます。何でもいいので過去から行っている活動をかき集めて事業活動による生物多様性への影響を相殺したことにするといった、江戸の敵を長崎で討つような事例が必ず出てきます(これは断言します)。そしてコンサルもこれを認めますし、推奨する人さえ現れます(これも断言します)。

義務化の方向になった途端に普及が目的化し企業に教えるだけの市場が生まれ、何も付加価値のない看板の付け替えやタグ付け事例が量産されたSDGsと同じ歴史を辿るのです。そして悪気なく真面目に取り組んだ企業が後からグリーンウォッシングと非難される未来が待っています。

企業で15年間生物多様性に携わってきた筆者の結論は、「餅は餅屋」です。企業は本業で利益を上げる、その利益から株主還元と同様に環境NPOなどを資金支援するのが最も健全で効率的な生物多様性保全活動なのです。

自社の事業活動による損失の評価などといった無駄なことにリソースを使わず、事業と直接的な関連はなくとも地域で自然保護や生物多様性の再生を行っている専門家やNPOを支援するのです。

その際、自然保護のアプローチは、都市化や開発を否定せず、(もちろんミティゲーション・ヒエラルキーの1と2を最大限実施した上で)都市化や開発に乗っかって流域思考と多自然ガーデニングで進めるべき、と考えます。そこで社員や家族を巻き込んでNPOや自治体、学校などと一緒に楽しみながら保全活動をすすめるのが王道だと考えます(自然保護のアプローチに関しては杉山大志氏と岸由二氏の対談動画および筆者の文字起こしをご覧ください)。

『メガソーラーが日本を救うの大嘘』

『SDGsの不都合な真実』