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生物多様性オフセットは、別名「バイオクレジット」としても知られる。開発で失われる生物多様性を別の場所で再生・復元し、生態系への負の影響を相殺しようとする試みだ。例えば、空港建設でフラミンゴが生息する湿地を破壊せざるをえない場合、建設会社はバイオクレジットを使って近隣地域で類似の環境を保護する活動に力を入れられる。
だが、かけがえのない自然を金銭で取引するような生物多様性オフセットの仕組みに対して、批判の声は根強い。
ブリュッセルに本拠を置く環境シンクタンク「グリーン・ファイナンス・オブザーバトリー」のエグゼクティブディレクター、フレデリック・ハッシュ氏は、現在の生物多様性オフセットの仕組みには決定的な欠点があると話す。例えば、絶滅のリスクが高い生物種のためにどこかに保護地区をつくれば、開発のために湿地を破壊しても許されるといった事態が起きる危険性をはらむと指摘する。
生物多様性の分野に先駆けて、脱炭素への取り組みではカーボンクレジットの売買を通じて温暖化ガスの排出量を相殺できる「カーボンオフセット」の仕組みが導入されている。そして、こうした相殺を容認する仕組みが気候変動対策に取り組むふりをする「グリーンウォッシング行為」を助長しているとの批判がある。
CO2はどこで排出しても地球の大気中で薄まるので、理念上や理論上はオフセットが可能です。しかし、どれだけ制度を整備しようが理念を並べようが、行き着くところはグリーンウォッシングです。
森林クレジットの場合、将来の乱開発予定を過大に評価するなど算出根拠が不明瞭だったり、CO2削減効果を超えて大量のクレジットが発行される事例も存在するなど、詐欺まがいの行為が横行しています。非化石証書についても、再エネを増やす拡大効果(いわゆる追加性)がなく、また国民が再エネ賦課金で負担した「環境価値」を企業側がタダ同然の費用で取得するというきわめて非倫理的な制度です。
先月のCOP27で国連の専門家グループから出されたレポートでも、自らの排出を減らしたとみせるために排出枠の購入に安易に頼るべきではない、と指摘されています。この指摘には、「良いクレジットと悪いクレジットがあって、悪いクレジットを使うな」という意味が込められていますが、本質的にはどのクレジットも「見せかけ」であり大差ありません。
筆者はあらゆるカーボンオフセットについて反対の立場です。実際にはCO2を排出しているのに、クレジットを購入して「実質ゼロ」「カーボンゼロ」などとうたって事業活動や自社の製品・サービスを宣伝することが横行していますが、グリーンウォッシングと言われても反論できないはずです。国が認めているから大丈夫、この製品はカーボンゼロだ、と子供たちの目を見て言えるのでしょうか。