これまでになかった質的優位とは

具体的な日本の質的優位の例を挙げよう。スペイン戦の後半23分、日本にリードを許したスペインは、ジョルディ・アルバとアンス・ファティを投入した。左サイドを活性化させ、そこから得点を生み出そうとしていた。どちらもバルセロナに所属する、抜群の個を有する選手だ。

それに対して日本は、冨安健洋を投入。スペインの左サイドに対抗すべく、右WBの位置にアーセナルで高い評価を得る守備のユーティリティプレーヤーを起用した。すると冨安は期待に応え、同サイドを完全に封印。スペインの名手2人を自らの「ポケットに入れた」のだった。スペインは何度か攻略を試みたものの結局は左から攻めることを諦め、右からの攻撃を増やしていくことになる。

日本代表 写真:Getty Images

「勝ちにいく」の意味に変化

過去のW杯においても、日本は強豪に対して勇敢に戦ってきた。試合前には選手から「勝ちにいく」という発言が出て、実際スコアにおいて僅差であったことも少なくない。1998年フランスW杯ではアルゼンチンに0-1、2010年南アフリカW杯ではオランダに0-1、2018年ロシアW杯ではベルギーに2-3。いずれも1点差だが、ただしいずれも敗れている。

今回も同様に「勝ちにいく」という発言があったうえで、実際にドイツ、スペインに対して勝利した。1試合であれば1996年アトランタオリンピックでブラジルに勝利した「マイアミの奇跡」のような奇跡も起こり得るが、2試合となると奇跡ではない。成長に加えて「勝ちにいく」の意味合いが、過去のものとは異なっていたのだろう。

以前の日本は多くのメンバーがJリーグでプレーする国内組で、頻繁に戦う機会のあるアジアの国を除き、力量の差をは正確に把握できていなかった。未知なものに対して勇気を持って挑むという「勝ちにいく」だった。しかし、現在は多くが欧州でプレーしており、各国の代表選手と日常的に対戦している。相手の技量を把握したうえで、自分が積んできた経験から自信を持って発する「勝ちにいく」へと変化しているように感じられる。


川崎フロンターレ DF谷口彰悟 写真提供: Gettyimages

谷口が示したJリーグの成長も

もちろんJリーグ全体の成長も、日本の強化に大いに貢献している。スペイン戦では、川崎フロンターレでプレーする谷口彰悟がW杯デビュー戦を迎えた。普通ならば固くなってもおかしくないが、前半から安定した守備を見せるとともにボール奪取から縦パスを入れるなど、普段Jリーグでみせているようなプレーを披露。金星に貢献してみせた。

近年のJリーグは急激に強度が増しており、現在の海外組もJリーグで成長してから欧州に羽ばたいた選手ばかり。3部リーグ制となり昇降格があることで、選手数が増えかつ競争意識を高めることに成功している。


クロアチア代表 写真:Getty Images