ドイツはサッカー王国だった。過去、4回、W杯の覇者であったし、3回サッカー欧州選手権者の優勝国だった。過去にはブラジルと匹敵する実績と多くの優秀な選手を輩出してきた。それが前回のモスクワW杯(2018年)では今回のカタール大会と同様、早々と予選で敗北し、欧州選手権でも同様だった。ドイツのナショナルチームに何があったのか……、これをドイツ国民が今、問いかけているのだ。

グループEのチームが発表された時、多分大多数のサッカーファンの日本人も「決勝戦に進出するのは絶望的だな」と考えただろう。世界のサッカーに精通していないが、愛国心の強い日本人だけが「グループ戦を乗り越え、ベスト8入りも夢ではない」と考えていた。

同グループには、強豪ドイツ、スペインが入っている。それに南米のコスタリカだ。どうみても日本チームが決勝戦に進出することは厳しい、というのがサッカー界の偽りのない声だったからだ。

グループ戦は終わった。その結果はグループ1位に日本が入り、2位にスペイン、そしてドイツは最終戦の対コスタリカで、4対2で勝利してかろうじて最下位を逃れた。対コスタリカ戦の前半、ドイツは0対1でコスタリカにリードを許した。コスタリカはドイツに勝ち、日本が勝利すれば、F4グループで決勝進出はコスタリカと日本で、スペインとドイツの2大強国は予選落ちとなっていたのだ。世界のサッカーファンは自分の目を疑っただろう。幸い、ドイツがコスタリカ戦で逆転したので、スペインは日本の後塵を拝することになったものの、決勝戦には進出できたわけだ。

「ドイツの苦悩」について話を続ける。カタール大会だけに限れば、ドイツにとって初戦の相手国日本チームに敗北したことがその後の戦いに大きな影響を与えたことは間違いないだろう。なぜなら、ドイツの選手たちは日本チームに敗北するとは夢にも思わなかったからだ。それが1対2で敗北したのだ。ドイツ対日本試合を中継していたドイツ公営放送のサッカー専門家も信じられないといった顔をしていた。

その通りだ。ドイツ代表が日本チームに負けるとはサッカーを少しでも知っているファンなら想定外のシナリオだからだ。それゆえに、対日戦敗北を咀嚼して再び這い上がるために選手たち、監督は苦悩したわけだ。ドイツチーム関係者には、4年前の「モスクワW杯」の悪夢が蘇っていたからだ。

22回サッカーW杯カタール大会では砂嵐ではなく、“政治の風”が吹いている。ドイツのメディアによると、ドイツの選手たちは対日戦前、試合の作戦を考えるより、性的少数派(LGBT)の権利を蹂躙し、女性の権利を認めないホスト国カタールへ抗議の印の腕章をつけて試合に臨むか否かを議論していたという。FIFA側がドイツチームの行動に対し、「ピッチで政治的言動をすることは許されない」と指摘、違反した場合、制裁金を科すと警告した。

ドイツチームは、FIFAの警告を無視して「ワン・ラブ」の腕章をつけて試合に臨むかで、土壇場まで選手たちは話し合ったというのだ。そして試合の当日、試合開始前の写真撮影の際、選手たちは口を手でふさぐことで、LGBTの権利要求の声を抑えるFIFAに抗議したわけだ。しかし、肝心の試合は1対2で日本に逆転されたのだ。勝利のために一丸となっていた日本チームに負けてしまったわけだ。