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少年時代を高度成長期とともに過ごし、青年時代にバブルを経験してきた58歳の筆者にとって、生き方の前提は終身雇用であり、年功序列であった。

何も筆者が特別に保守的だったわけではない。バブル当時の若者は、現代では考えられないほど画一的な価値観をもって、就職先というより就社先を選び、結婚や出産、マイホームの取得といった人生のイベントを、適齢期の名のもとに同じような年齢期に集中させていた。

しかし今、Z世代(※1)と呼ばれる若者たちの生き方は多様で多彩だ。彼ら彼女らにとって、新卒で入社した会社イコール終身雇用などではない。大学、いや高校ですら、通う必要を見出すことが出来なければ、生きる道を探すための旅に出ることもやぶさかでない。

ここでは、ゆでガエル世代(※2)と称される50代の筆者からは想像もできない、Z世代の生き方の実例の一つを紹介したい。

※1:Z世代=諸説あり。本文では1990後半~2010年生まれの、10代から20代前半までを指す。 ※2:ゆでガエル世代=環境変化に対応できない50代を、水からお湯への温度変化に気づかず茹ってしまうカエルに例えた。

とある街のこども食堂

静岡県島田市に在住する津守奈々さん(24歳)は、「本通り」と呼ばれるかつてこの町のメイン商店街だった路面にある空き店舗を借りて、こども食堂を運営している。

島田市は2005年から2008年にかけて近隣郡部の町と合併し、現在の人口は約9.6万人。面積が315平方キロであることを考えると、街の人口密度はかなり薄い。昭和には市の中心として賑わっていた本通り商店街も、郊外の大型店舗が増えるにつれ衰退していき、多くの地方商店街と同様に何年も前に閉じられたままのシャッターが目立つ。

奈々さんが運営するこども食堂は、様々な人の協力を得て実現し運営している。当然ながら若い彼女は金融機関からの融資は受けられない。そこには毎日夕方になれば様々な環境の子どもたちが訪れ、地域に欠かせない施設となっている。

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